研究課題/領域番号 |
23520319
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
若林 麻希子 青山学院大学, 文学部, 教授 (50323738)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 英米文学 |
研究概要 |
コスモポリタニズムの伝統の推移を、西漸運動との関係性の中で考察するために、歴史小説、主に、James Fenimore Cooperによる「皮脚絆物語」5部作、および、ニューヨーク州の入植史に関する二次資料について調査、研究を行った。その結果、オランダ系、フレンチ・ユグノー系、ドイツ系、そしてイギリス系の入植民の遭遇と混交の場となるニューヨークにおいては、オランダ由来の多民族性を許容するコスモポリタン的寛容主義が、1664年にイギリスが覇権を獲得して以降、異民族間結婚や英語教育の普及を背景に、その道徳的意義を失う過程を辿ることが出来た。また、1740年代になると、ヨーロッパ移民の「内なる差異」を形成してきた民族意識が、階級意識に凌駕され、社会的に殆ど意味をなさなくなることを突き止めることも出来た。二次資料によって得られたこれらの歴史的背景についての情報を踏まえた時、Cooperの「皮脚絆物語」の主人公Natty Bumppoが演出する白人と先住民にまたがる二重の帰属意識が何を意味するのか?その明確な解答はいまだ得られていない。しかし、現段階では、Cooperが活躍したのが19世紀初めの民主主義発達の時代であることを考えれば、Natty Bumppoの自意識は、階級意識にかわる白人統合のメンタリティーの何らかのモデルを提供しているものと推測している。 また、2012年1月にはシアトルで開催されたMLA年次大会に出席した。初期アメリカ文学・文化についてのセッションで、同時代文学を扱う研究者と意見交換を行うことが出来た。また、国際学会での研究発表のノウハウについても、基本的な情報を得ることが出来た。 さらに、2012年3月には大阪府吹田市にある国立民族博物館にて植民地時代ニューヨークにおける多民族性に関する文献の調査・収集を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
23年度に計画していたニューヨークでの資料収集を行うことが出来なかった。これは、国内で調達可能な二次資料の調査、収集が遅れたため、海外で調達しなければならない資料の整理が滞ったことによる。
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今後の研究の推進方策 |
James Fenimore Cooperの歴史小説についての調査、研究は引き続き継続して行う。その上で、Washington Irvingの旅行記を題材に用い、アメリカ人の自意識が、国際的な場で他者性と向き合う中で、コスモポリタン的自意識を凌駕する形で、如何に、「アメリカ人」としての自意識が研ぎ澄まされてゆくか、その見取り図を提示することに着手する。また、次年度には、New York Public LibraryおよびNew York State Libraryにおいてニューヨークの歴史について調査すると共に、CooperstownとTarrytownを訪れ、CooperとIrvingそれぞれのアメリカ人としての自意識を伝記的な側面から調査する。
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次年度の研究費の使用計画 |
Washignton Irving、旅行記、および19世紀初頭のアメリカ外交関係の文献・資料を購入すること、および、ニューヨークでの現地資料調査のための旅費として、主に、研究費を使用する予定である。 また、今年度のMLA年次大会への出席は大変有意義だったので、次年度においてもMLAに限らず、国外の学会に出席し、関心を共にする研究者との意見交換を行う。その際、自身の研究成果、特に、本年度行ったCooperについての研究成果を発表することも視野に入れることとする。
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