研究課題/領域番号 |
23520327
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
郷 健治 帝京大学, 外国語学部, 教授 (50266285)
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キーワード | イギリス / 英文学 / シェイクスピア / キリスト教 / 英国国教会 / 欽定説教集 / 書誌学 / イギリス・ルネサンス演劇 |
研究概要 |
イングランド国教会『欽定説教集』の書誌学的テクスト研究のための16-19世紀諸版本の蒐集に関する大きな成果としては、1582年版1・2巻合本の完本をオックスフォードの稀覯本書店より入手したことである。本研究者が2009年の『欽定説教集』のテクスト研究論文 (Notes & Queries, vol. 254, 2009, pp. 629-35) において詳細に明らかにした通り、この1582年版は『欽定説教集』研究において特別に重要な版である。English Short Title Catalogue によれば、この版は英米の図書館に9冊しか現存が確認されていない。今後の日本でのイギリス国教会研究の貴重な資料となるはずである。 『欽定説教集』第2巻の一節がサミュエル・ダニエルの『ロザモンドの嘆き』とシェイクスピアの『ソネット集』および『ある恋人の嘆き』の下敷きとなっていた、という事実を報告した筆者の2003年のReview of English Studies誌掲載論文の成果をさらに追及した成果を、春の日本英文学会全国大会(専修大学)での研究発表「シェイクスピアとW.H.氏とウィリアム・ハーバート」として発表した。また、秋の日本シェイクスピア学会(秋田大学)におけるセミナー「『ソネッツ』解釈の展望」を東京大学の高田康成教授とともに企画し、慶応大学の大矢玲子氏、京都大学の廣田篤彦氏、津田塾大学の阿部曜子氏と5人でこのセミナーを実施し、そのコーディネーターを務めた。春の英文学会における発表の延長として、「SHAKE-SPEARES SONNETS の1609年初版Quartoの出版事情再考」という研究発表をおこなった。また、秋以降は、シェイクスピアの作品と『欽定説教集』の関連性に関する研究において、fashionという言葉に関してひじょうに面白い発見があり、これを追求した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
まず、交付申請時には予定していなかった、2012年秋の日本シェイクスピア学会(秋田大学)におけるセミナー「『ソネッツ』解釈の展望」の企画を、恩師である東京大学の高田康成教授より提案していただき、急遽このセミナーを開くこととなり、そのコーディネーターを務めたうえで、『欽定説教集』とシェイクスピアの作品との関連性の研究の成果である研究発表「SHAKE-SPEARES SONNETS の1609年初版Quartoの出版事情再考」をおこなったこと。また、この研究発表の前提となる研究発表を、春の日本英文学会全国大会において、「シェイクスピアとW.H.氏とウィリアム・ハーバート」として発表したこと。この春秋2つの研究発表のため、『欽定説教集』とシェイクスピアの作品の関連性の新たな研究は冬まで持ち越さざるを得なかった。 そして、24年春、イギリスの英文学研究誌Essays in Criticismに投稿した英文の1万語余の長論文(『夏の夜の夢』と『欽定説教集』について)の査読審査がなぜかひじょうに遅れたこと。査読結果の返答がすぐになかったため、9月と11月に催促したものの、まだ審査中との返事で、結局、1年近くたったこの3月になり、ようやく同誌の編集長から査読の結果が届き、「オリジナルで素晴らしい論文ではあるが、ひじょうに専門的な論考なので、弊誌よりもShakespeare Quarterly あるいはReview of English Studiesに掲載された方がふさわしい論文である」、という審査結果であった。そのため、やむを得ず、この論文をさらに修正・加筆したうえで、イギリスのシェイクスピア研究専門誌Shakespeare Survey誌へ投稿し、現在査読審査待ちである。
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今後の研究の推進方策 |
この冬から春にかけての研究により、現在の日本語の「ファッション」(つまり、とくに衣服について、ある時代・年代に広く世間に共通して行なわれる、ある特徴や雰囲気を持った型)という意味で英語のfashionが使用されるようになったのは、シェイクスピアが生まれ育った16世紀半ば以降であり、また、この「服飾の新しいスタイルの流行」、あるいは、「流行する服飾の新しいスタイル」、というfashionの新しい意味の誕生、そして、この「ファッション」という概念そのものの誕生に、じつは『欽定説教集』が重要な役割を果たしていたらしいこと、そして、その事実に、同時代人のシェイクスピアが目ざとく着目して、様々な劇作品において「衣服」と「ファッション」がカギとなる役割を果たしていた、という注目すべき事実をさらに探求したい。ファッションの誕生は近代ヨーロッパ世界のみにみられた歴史的に重要な現象であり、ファッションの誕生が(まず綿製品に始まった)イギリスでの産業革命の起爆剤となったこと、そして、現在では、「ファッション学」なるものが存在することからも、このテーマの重要性は明らかである。 25年度は、『欽定説教集』とシェイクスピアの作品の関連性を探求する本科研費採択課題研究から得られた成果をひろく日本の読書人に還元すべく、『欽定説教集』から生まれた注目すべき新たな英語の言葉の意味 ~fashion(ファッション)、space(宇宙)~などをはじめとする、英語の言葉で現在日本語として使用されている言葉における、本来の英語の意味と日本語のズレをわかりやすく解説する新書を執筆する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
5月3日に米プリンストン大学近東学部で行われるシンポジウムに招待されたため、 “Any Thought on Islamic Fashion?: The Birth of ‘Fashion,’ Shakespeare, and the Books of Homilies.”(「イスラーム圏のファッションについてなにかお考えはありますか?「ファッション」の誕生とシェイクスピアと『欽定説教集』」)、という研究発表(40分)を行う。そして、この機会を活かして、プリンストン大学図書館、および、ワシントンのFolger Shakespeare Libraryで『欽定説教集』の16~18世紀のeditionsのリサーチを行う。(Folger Shakespeare Libraryは、『欽定説教集』の古い版を多数所蔵する図書館である。)この渡航費と滞在費に科研費を活用する。そのあと、夏期休暇を利用して、イギリスのオックスフォードと大英図書館においても、『欽定説教集』の16~18世紀のeditionsのリサーチを行う予定である。また、『欽定説教集』とシェイクスピアの諸作品の関連性の研究を進める上で研究書を購入する費用にも科研費を活用する。
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