研究課題/領域番号 |
23520329
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
阪本 久美子 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (50319240)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | イギリス演劇 / シェイクスピア / 上演研究 / ジェンダー / 身体 |
研究概要 |
初期調査として、20世紀以降の異性配役の上演史を把握し、異性配役上演の概観を探った。イギリスにおける上演史調査のため、8月および3月にイギリスに出張した。オールメール劇団プロペラの4作品、身体性を強調したフィジカル・シアターの劇団コンプリシテおよびDV8の最新作を視察し、劇場アーカイヴにおいては異性配役上演の代表的作品を閲覧することができた。 現在、二つのトピックで研究を進めており、次年度中に成果として発表する予定である。1「女性のハムレットまたはハムレットの女性」という仮題で、ハムレットが女優によって演じられた上演に関する研究を進めている。トニー・ハワードなどによる先行研究を調査し、日本における麻実れいと安寿ミラによるハムレット、柿食客の女優のみによる改作『悩殺ハムレット』との比較を試みている。この研究は、女性が主役の男性登場人物を演じた上演における、ジェンダー間の力関係の変化を考察していくことに発展する。2シェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』における男女の関係は、現代舞台で上演する際には問題視されがちだ。それゆえ、「問題劇」であるとも言われるわけだが、女優のみまたは男優のみで演じられた場合の、ジェンダー・ポリティクスへの影響を探る。オールメールの『じゃじゃ馬ならし』(彩の国さいたま芸術劇場)と女優のみの『じゃじゃ馬ならし』(グローブ座)の二つの上演を出発点として調査を進めた。役者の身体の一部としての性が、上演の際に作り出す登場人物と、どう相互作用するかを解明するという全体の主眼点につながる。 本年度は、初期調査がほぼ完了したこと、および「異性配役上演」という大きなテーマの中で、具体的な研究対象が定まり、明確な方向性をつかんで研究が進めるにいたったことが重要な成果であると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年の震災後の計画停電の影響で、勤務先のキャンパスにおける業務が滞ったこと、またプロジェクト開始の可能性も不明な時期を経験した結果、研究への着手が遅れた。それでも、「背景の調査」および「理論の調査」はほぼ完結した。「シェイクスピア劇に関する文献の調査」および日本における「上演作品の調査」、「上演資料の調査」は継続的に行なう調査であるため、特に遅れていることはない。「ウェブサイトの設置」は、本年度中にはかなわなかった。「背景の調査」として、日本の上演は早稲田大学演劇博物館のデータベース、および主要演劇雑誌『テアトル』、『悲劇喜劇』のバックナンバー、イギリスの上演は劇評を集めたTheatre Recordのバックナンバー、アルバート&ヴィクトリア博物館演劇博物館の資料や劇団のホームページにより、20世紀以降の異性配役の上演史を調査した。また、「理論の調査」として、身体論、パフォーマンス研究、ジェンダー論、クイア論に関する文献を調べた。「シェイクスピア劇に関する文献の調査」は、焦点を定めた『ハムレット』と『じゃじゃ馬ならし』に関しては現在のところ完了したが、その他研究対象とする上演のシェイクスピア劇に関する文献調査は終わっていない。ただし、この調査は、次年度以降も行なう上演の調査と並行して行なわれるべきであり、新しい論文も毎年発表されるため、継続的に行なう必要のある調査であり、決して遅れているわけではない。 「上演作品の調査」および「上演資料の調査」も同様に、継続的に行なう調査であるが、本年度は2回の渡英のおかげで、イギリスにおける上演の資料収集が進んだ。最新作の上演視察に加えて、グローブ座アーカイヴでは、前芸術監督の下で行なわれたオール・フィーメール上演を閲覧できた。 「ウェブサイトの設置」の資料はほぼ集まったが、実際の設置は次年度に持ち越す。
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今後の研究の推進方策 |
本年度に行なった異性配役上演の背景の調査を基にして、上演作品の調査および上演資料の調査を本格的に進めていく。シェイクスピアのテクストを分析する場合と同様に、研究対象として選定した上演ビデオを何度も繰り返し視聴して、詳細に分析する。DVDとして入手可能なもの以外は、劇場アーカイヴなどで視聴を行う。特にイギリスにおける上演作品のビデオや上演資料は門外不出の場合が多いため、この調査は次年度以降も断続的に行われ、随時分析結果をまとめる。イギリスへの出張は、次年度も2回を考えており、異性配役上演の新作上演および再演に合わせて、アーカイヴにおける追加調査を行なう。国内では、彩の国さいたま芸術劇場のオールメール・シリーズや柿食客の女体シリーズ、ほか単発の異性配役上演を視察し、資料を収集する。 理論およびシェイクスピア劇に関する批評は、随時最新の情報を得られるように、本年度も目を配る。 本年度に実行がかなわなかったのは、ウェブサイトの設置である。したがって、次年度に着手し、整備していかなければならない。年度初めに、ウェブサイト立ち上げに必要な技術的援助を得る先を具体的に決定し、年度終わりまでに現在手元にある資料をアップロードして、ある程度整備された状態にしたいと考える。 次年度は研究結果を成果として発表開始する年であり、本年度中に研究を進めた二つのトピックに関して、論文を発表したい。片方は、研究発表またはシンポジウムかセミナーの形で発表し、他研究者の意見をうかがい、最終年度に向けて多角的に「異性配役の身体」の探求を進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
イギリスにおける上演と日本の上演を比較するというプロジェクトの性質上、次年度も渡英が必須となる。また、演劇は見なければ研究できないものであるため、本年度同様、視察またはアーカイヴにおける録画の閲覧が研究の要となる。また、同時に、研究対象となった上演の資料およびシェイクスピア劇に関する文献を購入しなければならない。したがって、費用の内訳は本年度とそれほど変化はないと考える。 英国の上演史関係図書、日本の上演史関係図書は本年度中に入手できなかったもの、また新たに入手が可能になった演劇・文学批評理論関係の図書や、入手が必要になったシェイクスピア関連図書を、物品費より購入したり、相互貸借システムなどを利用して複写として入手したい。 調査・資料収集は、国内では東京、大阪、埼玉、静岡など、国外ではイギリス各地(ロンドン、オックスフォード、ストラットフォードなど)に出向いて行なうため、旅費が必要になる。次年度は、10月にグローブ座で再演されるオールメールの『十二夜』に合わせて、渡英する予定だ。その後、校務に多少余裕のできる3月に、男優のみの劇団プロペラの新作の視察と、現地アーカイヴや図書館での資料収集を兼ねて、渡英したい。 次年度も続けて、国内外で異性配役を含んだ上演などを視察する必要があるため、観劇費を必要とする。 ウェブサイトの設置費用が、本年度中に使用できなかった研究費にあたる。したがって、次年度には設置の費用として、残りを使用する予定である。
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