研究課題
本研究の最終年度にあたり、19世紀のアイリッシュネスの発展と拡散をめぐって小説と旅行記、および刊本に含まれる関連図版に注目して研究を進めた。本年度の主たる研究項目は次のとおりである。①アイルランド北西部、ドニゴール州にある「聖パトリックの煉獄」は、中世期から現代にいたるまで、ヨーロッパ全土からカトリック巡礼の集まる地として知られている。この聖地は、18世紀末から19世紀にかけ、宗教的、考古学的な関心の対象であるとともに、さまざまなジャンルの文学作品や旅行記などでも取り上げられ、アイルランド農民の実態を描くのに有効な題材としての意義を有するようになった。プロテスタントの目線から、アイルランド人を描く格好の素材として、それまでには見られなかったパースペクティヴの下で取り上げられるようになった事実を詳らかにした。②アイルランド南西部は、ゲールの文化伝統を引き継いだ地域として知られるが、18世紀末から19世紀にかけ、アイルランド内外から多くの旅行者を引き付けていた。貧しいアイルランド農民や彼らを取り巻く環境、そして、彼らの語りの文化伝統が、アイルランド内外のプロテスタントによってどのように取り上げられたかに注目し、アイルランド的なものの発信戦略のあり様を、文献テクストと刊本に含まれる図版の分析をとおして詳らかにした。アイルランドへの目線の複数性の重要性が明確に認識できた。③前年度までの研究を踏まえ、18世紀末から19世紀のブリテンにおいて、アイルランドの特定地域がアイルランド性を有する文化的トポスとしてどのようなネットワークの中で注目されるものとなったかを総括した。アイルランド発信の小説とアイルランド内外のプロテスタントによる旅行記が鍵を握っている点が明らかとなった。
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Semiannual Periodical of the Faculty of Arts and Sciences: Department of English and Department of Foreign Languages (Komazawa University)
巻: 18 ページ: 57-85
Studies in English Literature
巻: English Numbers 56 ページ: 39-56