研究課題/領域番号 |
23520331
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
結城 英雄 法政大学, 文学部, 教授 (70210581)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | アイルランド / ルネサンス / ジェイムズ・ジョイス / ダブリンの市民 / 若い芸術家の肖像 / 未耕地 / 一青年の告白 / ユリシーズ |
研究概要 |
「ジェイムズ・ジョイスの創作に及ぼしたアイルランド文学ルネサンスの影響」という課題をめぐり、平成23年度は、「ジョージ・ムアとジェイムズ・ジョイスの関係」について考察した。ムアとジョイスの関係は「敵対」という言葉がふさわしいが、実際は深い因縁があった。 ジョイスが短篇集『ダブリンの市民』(1914)の創作を開始するのは1904年からであるが、その前年にはムアの『未耕地』(1903)が出版されている。また、ジョイスの自伝的小説『若い芸術家の肖像』(1916)の創作の背景には、すでにムアの自伝的な小説『一青年の告白』(1886)があった。さらに、ジョイスの『ユリシーズ』の内的独白という手法はきわめて斬新なものと言われているが、これはムアのパリ時代の友人である、フランスの象徴派詩人エドワァール・デジャルダンのことを側聞したことによるものであるだろう。そもそも、ジョイスもムアもアイルランド文学ルネサンスに関わりながら、国家と芸術家の相克に苦しんでいた。文学的な姿勢においても、ジョイスがムアに感化されたところが大きいと思われる。 ジョイスの大陸への関心はほとんど個人的な天才として論じられることが多いが、以上のような関係を念頭に入れるなら、ジョイスの文学がムアから影響を受けたことは否めない。ジョイスの青年時代、ムアはダブリンの偉大な文学者として崇拝されており、無視しえぬ存在であっただろう。ジョイスの文学を大陸的なものと関連させて論ずる際、ジョイスに影響を与えたこうしたアイルランド事情を無視しがちである。本年度はジョイスとムアのそうした深い関わりを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「ジェイムズ・ジョイスの創作に及ぼしたアイルランド文学ルネサンスの影響」をめぐり、今年度は「ジョージ・ムアとジェイムズ・ジョイスの関係」について考察した。現地調査の期間が短かったため、収集できない資料もあったが、ムアとジョイスの関係について予定していた研究を遂行することができた。 とりわけ伝記資料を入手することにより、ジョージ・ムアが、居住地の都市ロンドンよりも祖国の都市ダブリンの文学事情に関心を示し、ダブリンの文学活動に力を尽くし、若い文学青年たちを感化していたことを立証し、ジョイスがその輪から外れていたという通説を覆すことができた。こうしてジョイスがアイルランド文学ルネサンスに背を向けていたという、これまでの通説に疑義を呈することができたと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
23年度においては、法政大学英文学科の主催するスタディ・アブロードの引率により、ダブリンへの旅費や市内での滞在費が不要となったため、384,294円が未執行となった。この未執行の金額については、不足の資料を補うために使用したい。今回の研究においては、ダブリンのユニヴァ―シティ・コレッジのアン・フォガティ教授の協力もあり、有意義な助言も得ているので、資料の補充はスムーズであろうと思われる。すでに前年度末あたりから、そのような資料を購入しているので、ほどなく整備できる予定である。 この新しい資料はジョージ・ムアに関するものであるばかりか、同時代のダブリンに関わるものでもあるので、今後の研究とうまくリンクしながら活用できるはずである。ムアの文学に対する関心は彼個人にとどまらず、同時代のアイルランド文学ルネサンスの作家の関心事でもあったからだ。その意味で未使用の金額は今後の研究にも大いに裨益するはずである。
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次年度の研究費の使用計画 |
「ジェイムズ・ジョイスの創作に及ぼしたアイルランド文学ルネサンスの影響」をめぐり、24年度は「W.B.イェイツとジェイムズ・ジョイスの関係」を考察することにする。ジョイスの文学はイェイツへの反発から出発したたと言われるが、ジョイスの文学のかなりの部分が、手法やテーマにおいて、イェイツと重なっていることを明らかにする。 同時にイェイツを取り巻くレイディ・グレゴリーやJ.M. シングの文学観も検討したい。これら3人は同一のグループと論じられることが多いが、それぞれ固有の文学観を有していたことは、それぞれの自叙伝にも明らかである。ジョイスがこれら3人の文学者から受けた影響についても明らかにするつもりである。 そのため、24年度においては、イェイツ、グレゴリー、シングを中心に、ジョイスとアイルランド文学ルネサンスに関わる図書の購入費、およびユニヴァーシティ・コレッジでの資料収集に要する旅費に研究費を使用する予定である。
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