シェイクスピア・フォリオという「もの」に残された読者の痕跡から、当時の読者がどのようにシェイクスピアを受容していたのかを探る研究である。 本課題で最も詳細に読者の書き込み行動の分析ができたのは、オックスフォード大学ボドレー図書館所蔵のセカンド・フォリオの場合である。そこでは、18世紀初頭の読者がシェイクスピア(フォリオテクスト)を「新版シェイクスピア」に準じて改良すべきものととらえ、はじめは王政復古期の改作版に準じて改訂作業をおこなったものの、ロウ編纂の全集(1709)が出ると「改作」と「原作」の区別に気付いたかのように、ロウ本準拠でフォリオを「現代化」したことが分析の結果判明した。
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