2013年度には、当初の計画通り、16-17世紀イングランド演劇がパブリック圏創出の場として、近代的個人の形成に影響を与え、社会の初期近代化の文化的一因となった点を検証するための研究を行った。研究内容としては、民衆儀礼シャリヴァリの表象と関連する演劇およびメディアの受容を、演劇およびパブリック圏における集団受容経験として分析した。そこから、近代初期人の自己形成に、社会やコミュニティにおける自己の存在の認識というself-awareness(自己認識)が大きな役割を果たしたことを検証した。また、演劇の集団的受容の際生じるコミュニケーション・ネットワークが、劇場を、限定的な意味ではあるがパブリック圏となし、個人の心性や、自律的個人が参加して形成されるコミュニティという点において、近代初期文化の生成に貢献したと結論づけた。 2013年度内の成果は、以下3点の論文および2回の学会発表である。以下、掲載された論文の概要を述べる。1点目の"The Public and Community in the Revenge Play"(『自然・人間・社会』2013年55号)では、仮面劇というパフォーマンスの場が、誰にでも演技者として参加可能であったことから、パブリック圏における民衆の自律性形成の場となった点を明らかにした。2点目の「『白い悪魔』の"the world turned upside-down"の表象と復讐劇のカタルシス」(『自然・人間・社会』2014年56号)では、当時のニュース媒体と演劇とに共通して頻発する秩序逆転の表象から、近代初期人の社会的意識を分析した。3点目『ランカシャーの魔女たち』とナサニエル・トムキンス:近代初期イングランドの観客心性」(『比較文化の地平を拓く』開文社)では、演劇作品に関連する裁判記録と観客の書簡を取り上げ、演劇のゴシップとしての機能・質を検証した。
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