研究課題/領域番号 |
23520344
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐藤 渉 立命館大学, 法学部, 准教授 (30411143)
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研究分担者 |
一谷 智子 広島修道大学, 法学部, 准教授 (70466647)
湊 圭史 立命館大学, 理工学部, 非常勤講師 (10598527)
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キーワード | 国際情報交換 / オーストラリア |
研究概要 |
2012年度はオーストラリアから2名の作家・研究者を招聘し、シンポジウム「複数の文化・複数の歴史を書く―現代オーストラリア作家との対話」を開催した。招聘したスピーカーは、オーストラリア国立大学の先住民史研究センターの研究員であり創作も発表しているJeanine Leane博士と、気鋭の新進作家でタスマニア大学の創作科講師を務めるRohan Wilson氏である。複数の文化が常に接触しているオーストラリアで執筆する二人が、文学の根幹にかかわる主体性という問題についてどのようにとらえているのか、また他者について書く行為においてフィクションが持ちうる可能性について意見を交換した。本シンポジウムの成果は『南半球評論第』28号において発表した。 その他、各自が担当している分野において、現段階での成果をまとめた論考を所属学会や紀要で発表した。佐藤はヴェトナム系の作家ナム・リーの作品が従来の「エスニック文学」に批判的検討を加え、コスモポリタン的なアイデンティティの在り方を描いていることを論じた。湊は文化の境界局面における言語の諸相について論じた。また、グロテスクという概念がオーストラリア文学の中でどのような特異性を見せているか考察した。一谷は前述のシンポジウムでLeane氏が提唱したライフ・ヒストリー・ライティングについて理論的考察を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の途中経過を公表できる段階まで達しており、おおむね予定通り進展している。先住民文学については女性作家によるライフ・ヒストリーの理論的検討から出発し、アイデンティティ・ポリティクス後の多様な主体性の在り方について分析が進んでいる。ヨーロッパ系の作家によるアボリジニ・アイデンティティ詐称の事例も研究対象とし、エスニシティに依拠したアイデンティティの在り方に対して現代文学が再検討を迫っていることが明らかになりつつある。アジア系作家についてはナム・リーやトム・チョウの作品の検討から「パフォーマンスとしてのアイデンティティ」がひとつの傾向として浮かび上がっている。また、自然環境と人間社会の関係を主題とした作品群が、アイデンティティや主体といった近代文学の基盤を成す概念にたいする疑義を提示していることが明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる今年度は研究分担者および国内外の研究協力者の論文を集めた論文集の刊行を目指す。当初計画では翻訳短編集の出版準備を進める予定であった。しかし、立ち遅れている日本のオーストラリア文学研究を促進するためには、むしろ日本語で初となる論集を出版することの意義が大きいと判断した。寄稿は本研究に関わっている国内研究者にとどまらず、過年度の研究で培ってきたネットワークを生かしてオーストラリアからも募る。海外からの投稿については日本語に翻訳して掲載する。6月中に編集方針と執筆者を確定し、9月に執筆者による報告会を行う。国内メンバーについては隔月で研究会を開催し、担当分野の研究進捗状況の報告を行う。海外の研究協力者および執筆予定者とはEメールによる情報交換を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
文学作品、オーストラリアの主要文芸誌、論文等の資料収集を行う。また、オーストラリアにおける文献調査と聞き取りのための海外出張費と、立命館大学および西南学院大学で開催予定の研究会参加のための国内出張費を計上している。
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