研究課題/領域番号 |
23520344
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
佐藤 渉 立命館大学, 法学部, 准教授 (30411143)
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研究分担者 |
一谷 智子 西南学院大学, 文学部, 准教授 (70466647)
湊 圭史 立命館大学, 理工学部, 非常勤講師 (10598527)
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キーワード | オーストラリア文学 / アイデンティティ / エスニシティ |
研究概要 |
2013年度は各自の担当分野における成果を論文や学会発表により公表した。佐藤はヴェトナム系の作家ナム・リーと中国系の作家トム・チョウに関する論考をまとめた。これらの作家が、「移民文学」を批判的に検討する視点を作品に織り込み、一世の文学を特徴づけていた「真正な」体験を語るというスタイルから一線を画していることを論じた。とりわけチョウの作品は、エスニシティすら消費対象とする商業主義を軽やかに批判する一方、グローバルに流通するイメージを二次的に利用している点において、創造的な消費行為に他ならないことを明らかにした。湊は、ギリシャ系作家クリストス・チォルカスの作品が、エスニシティをアイデンティティの核に据えることができない現代オーストラリアの社会状況を描き出していることを論じた。両研究から明らかとなったのは、作家の関心が移民体験そのものを描くことから、エスニシティを巡る力学を描く方向へと移りつつある状況である。一谷は、B.ワンガーの再評価を試みた。ワンガーはセルビア系の移民でありながら、オーストラリア先住民の名前で執筆したことからアイデンティティ詐称の批判を受け、オーストラリア文学界では黙殺されてきた作家である。一谷は作家のアイデンティティの正統性を巡る議論に終始しがちだった従来の研究から踏み出し、3.11後の世界文学にワンガーを位置づけることを提唱した。 研究期間全体を通して、アイデンティティや移民体験の「正統性」に依拠した創作から、固定的なアイデンティティ観に対する批評意識やコスモポリタン的な問題意識に貫かれた創作へと向かう変化が観察された。こうしたマイノリティ文学の動向を踏まえつつ、オーストラリア主流文学がどのような変容を遂げつつあるのか検証を進め、さらには世界の英語文学の動向と比較研究することが今後の課題である。
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