研究課題/領域番号 |
23520346
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
塚田 幸光 関西学院大学, 法学部, 教授 (40513908)
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キーワード | 映画 / 映像文化 / 表象 / ヘミングウェイ / クロスメディア / アメリカ / 身体 / 戦争 |
研究概要 |
2012年度は、アメリカ文学と映像文化論を中心に、3冊の図書、3件の研究発表を行った。 『交錯する映画 アニメ・映画・文学』(ミネルヴァ書房)では、論文「ゲルニカ×アメリカ―ヘミングウェイ、イヴェンス、クロスメディア・スペイン―」を寄稿した。この論文では、スペイン内戦とヘミングウェイの関係を辿り、ジャーナル、ドキュメンタリー・フィルム、ノヴェルの交差から浮かび上がる戦場の政治学を論じた。『越境する文化』(英光社)では、論文「プロファイリング・ホワイトネス―Faulkner、黒人乳母、Go Down, Moses―」において、南部白人が体現するメタフォリカルな「白さ」に注目し、黒人乳母表象を軸に、Go Down, Mosesを再解釈した。また、『ヘミングウェイ大事典』(勉誠出版)では、編集委員としての編集作業に加え、約70編の項目執筆を行った。 学会発表「クロスメディア・ヘミングウェイ―ニューズリール、ギリシア・トルコ戦争、「スミルナの桟橋にて」―」(日本アメリカ文学会東北支部)では、初期ヘミングウェイ作品の萌芽とメディアとの関係について論じた。また、学会発表「フリークス・アメリカ―ヘミングウェイ、ロン・チャニー、身体欠損―」(アメリカ学会第46回年次大会)では、1920年代のダークサイド、傷痍軍人の身体について、文学と映画表象の交差を考察した。そして、学会発表「「食」をめぐる政治学―マカジキ、カニバリズム、『老人と海』―」(ワークショップ「ヘミングウェイと動物表象」)(日本ヘミングウェイ協会)では、動物表象が照射する文学の政治性について議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究「ヘミングウェイ文学と「メディア」の政治学」に関して、その成果は3冊の図書(共著)と3件の研究発表に顕著である。さらに、『ヘミングウェイと老いの表象』(共著、松籟社)など、本年度に寄稿した論文の出版も控えている。研究計画に対する達成度の高さは、これらの成果によって証明できる。 本年度(2012年度)は、ジャーナル、フィルム、レター、ノヴェルなどの交差とその影響関係をクロスメディア的視座から考察した。本研究のタイトルそのままに、文学とメディアの交差研究が主眼である。特に、著書『交錯する映画』に寄稿した論文「ゲルニカ×アメリカ」と学会発表「クロスメディア・ヘミングウェイ」は、本研究の中心的な成果であり、実験的であった。ジャーナルやフィルムから見えてくる「ヘミングウェイ」解釈とは、アメリカ文学研究において、先行研究の殆ど存在しない未開の領域である。 また、本年度の達成度は、ジャーナル研究の充実からも確認できる。昨年度に全巻購入した左翼系フォト・ジャーナル誌『ケン』、『エスクワィア』、『ライフ』を比較検討し、ジャーナルから見えてくる1930年代を考察した。特に40年代後半から右傾化する『ライフ』の変遷研究は、一次資料の調査からしか見えてこない確固たる成果である。さらに、米国ケネディ図書館で入手した複写資料は、先の論文「ゲルニカ×アメリカ」や『ヘミングウェイ大事典』でその成果を公表している。
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今後の研究の推進方策 |
ジャーナル研究に加え、プロパガンダ映画やドキュメンタリー映画との交差を軸に、文学とメディアの関係を探る。特に、米国議会図書館や公文書館でのプロパガンダ資料(OWI/OSS資料)の調査、ニューディール期のメディア研究は、急務である。そして、これら(1930~40年代)の調査研究に加え、冷戦期のヘミングウェイとメディアの関わりもターゲットである。ヘミングウェイ『老人と海』の背後に潜む冷戦の政治学とは、テクストに散らばるメディア的痕跡から再解釈できる。モダニズムから冷戦への繋がりを、ヘミングウェイとメディアの繋がりから読み解く。 これらの成果は、可能な限り、学会発表と学会論文、図書出版で公開する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
国内外の旅費として使用を予定している。米国議会図書館をはじめ、一次資料の調査には、渡米は不可欠である。往復航空運賃と滞在費、複写代として、使用予定である。また、国内での学会発表や学会参加においても、交通費と滞在費として使用を予定している。 また、ヘミングウェイ関連、メディア、映像文化等の消耗図書や、映画・映像DVD資料として使用を予定している。その他は、複写等、研究と関連する項目に使用を予定している。
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