初期モダニズム期のイギリス小説、主にジョーゼフ・コンラッドとH. G. ウェルズによる作品を中心に、19世紀末におけるイギリス労働組合運動の発展が小説の語りに及ぼした影響を検証した。最終的に、労働組合運動の活発化に伴うポピュラー・メディア上での労働者の「声」の顕在化と、同時期における小説の語りの形成との関連を明らかにし、初期モダニズム文学の特徴的な芸術様式が、階級社会における音声の多重化現象へのある種の対応として発生したものであることを立証した。また、組合運動を通して、集団としての労働者の社会的影響力が増大していくに従って、物語において群衆が果たす役割が拡大していくことも見出した。
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