研究課題/領域番号 |
23520352
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研究機関 | 松山大学 |
研究代表者 |
吉田 美津 松山大学, 経営学部, 教授 (80140622)
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キーワード | アジア系アメリカ文学 / エスニック・アメリカ文学 / エスニシティ / 環境批評 / 空間表象 |
研究概要 |
本研究は、アジア系アメリカ文学を中心に現代エスニック・アメリカ文学において移動や越境、さらにエスニシティが風景や環境の空間表象としていかに描出され、そしてどのように構築されるか考察することを目的としている。平成24年度の研究成果は、学会発表一回と雑誌論文(報告論文)一本である。 1.研究成果:〔雑誌論文(報告論文)〕「強制収容と日系移民の文学―俳句を中心に」『エコクリティシズム・レヴュー』(エコクリティシズム研究会)No. 5, 42-47. 〔学会発表〕日本アメリカ文学会第51回全国大会・ワークショップ「もうひとつの公民権運動―60年代アクティヴィズムと文学」(多民族研究学会発題)司会・西垣内磨留美 発表・松本昇、吉田美津、斎藤修三、馬場聡 (10月14日於:名古屋大学) 2.内容・意義・重要度:〔雑誌論文(報告論文)〕「強制収容と日系移民の文学―俳句を中心に」は、第24回エコクリティシズム研究会(2011年8月8日開催 於:広島大学東千田キャンパス)でのシンポジアム「エスニシティとエコクリティシズム―現代エスニック・アメリカ文学を読む」における報告をまとめた報告論文である。〔学会発表〕ワークショップ「もうひとつの公民権運動」では、1960年代の公民権運動やカウンターカルチャーを民族的少数グループの視点から再考するというテーマのもと吉田はアジア系の公民権運動と文学活動がアフリカ系の活動からどのように影響を受けたかを論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本アメリカ文学会第51回全国大会でのワークショップ「もうひとつの公民権運動―60年代アクティヴィズムと文学」において公民権運動を通じてアジア系、アフリカ系そしてチカーノの運動が連動し影響しあっていることを理解した。この知見をもとに、奴隷としての大西洋越境の事実がアフリカ系の文学にとって重要なモチーフとなっているように、アジア系移民が太平洋を越境したことの文学的重要性を認識した。この視点から、アジア系アメリカ文学の、特に中国系アメリカ文学を1960年代から1990年にいたるアメリカ合衆国による経済的政治的な太平洋世界の構築との関連で考察し、それを論考「アジア太平洋世界の想像力―『ドナルド・ダック』と『アメリカの中国人』を中心に」にまとめた。論考は、平成25年度末に刊行予定の多民族研究学会創設10周年記念論集に掲載予定である。 さらに、論考「強制収容と日系移民の文学―俳句を中心に」では、二世を含めたに日本人移民が転住所(強制収容所)において自然と環境をどのように捉えていたかを俳句を中心に考察し、日系移民の歴史的体験が彼らの描く自然と環境に深く関連していることを理解することができた。以上の論考によって、アジア系の越境や移動の体験をトランスパシフィックな空間表象として捉えることの重要性を認識し、彼らのエスニシティ構築と自然と環境描写の複合的な関係をより深く考察することができた。
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今後の研究の推進方策 |
アメリカ文学会全国大会でおこなったワークショップ「もうひとつの公民権運動―60年代アクティヴィズムと文学」における報告によって、アメリカ合衆国の「アジア太平洋世界」の構築がアジア系アメリカ人のエスニック・アイデンティティ形成に重要な影響を与えていることを考察した。「アジア太平洋世界」という地理的空間表象についての検討を進めながら、アジア系アメリカ文学を中心に、ネイティブ・アメリカンなど他の現代エスニック・アメリカ文学におけるエスニシティと環境の関連を視野に入れて、多民族社会におけるエスニシティが風景や環境表象としていかに描出され、そしてどのように構築されるかの考察をさらに深める予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究費は主に物品費として関連図書の購入と旅費として資料収集、さらにアメリカ研究をテーマとする研究会への参加と研究者との打ち合わせに使用する。図書としては、アジア系も含めて、ネイティブ・アメリカンの文学ならびにアフリカ系アメリカ文学に関するエスニシティ、文化越境と移動、さらに環境と自然をテーマとした関連図書を購入する。 旅費は、関西と関東地域の研究機関での資料収集や研究の打ち合わせの費用に充てる予定である。
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