研究実績の概要 |
本研究は、中世イギリスにおける夢幻視文学のパラダイス描写を中心に、その描写の起源となった古代の黙示文書を探求しつつ、夢幻視文学とDanteのDivine Comedyとを比較する研究である。 平成23年度に英国に赴いて、中世夢幻視物語の諸作品とDivine Comedyの写本および図像の調査を行った。ロンドンのBritish LibraryではYates Thompson 36, Egerton 943, Harley 3513等を、オックスフォードのBodleian Libraryでは、Hokham misc.48等の写本を調査した。現地では、絶版となっている文献から重要な資料も入手した。 夢幻視文学の作品としては、平成23年度から25年度にかけて主にSt. Patrick's Purgatory、The Revelation of the Monk of Eynsham、The Vision of Tundale等を取り上げてパラダイス描写の比較検討を行った。これらのうち、特にThe Vision of TundaleがDanteのDivine Comedyの異界描写あるいは異界構造との類似性が最も強いことが明確となった。この成果を基に、平成26年度から27年度では、The Vision of Tundaleの12世紀のラテン語テキストと15世紀の中英語テキストの記述上の相違についても比較研究を行い、特にパラダイス描写と関連性が強い「三位一体」の記述に微妙な相違があることがわかった。この三位一体についてはDivine Comedyの主軸でもあり、平成27年度にはこの作品と中英語テキストおよびラテン語テキストとの比較検討、更に黙示文書との関連性を比較検討し、先行研究には見られない成果をあげることができた。更に、Tundaleの写本(Cotton Caligula A ii)とDivine Comedyの写本(Yates Thompson 36)から本研究に関連するデジタル写真を入手し、複合的な研究を遂行できた。
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