研究概要 |
視聴覚翻訳(Audiovisual translation, 以下AVT)の研究に於いては,多重コードテクストの非言語的要素の分析が言語的要素の分析と同様に重要であるにもかかわらず,十分な研究成果があげられてきたとは言えない。視聴覚データベースの効率的な構築をはかるために,特に研究の遅れている音響面の分析を進め,研究成果を,国内外の学会(日本英文学会中国四国支部大会,及びInternational Conference on Language, Literature & Linguistics 2013)で口頭発表を行った。 具体的には,英語に翻訳された日本のアニメーション映画『千と千尋の神隠し』(Spirited Away)を採りあげ,音声編集ソフトAdobe Auditionを用いた基礎データの収集・分析方法を試案として開発した。 成果として,サンプルとして分析した6か国(台湾,フランス,韓国,アメリカ,ドイツ,チェコ)の翻訳版を比較した結果,間と沈黙の数は各国語版ごとに差があり,間と沈黙を最も多く回避している国は,アメリカ版(英語)であることがわかった。さらに,アメリカ版では,沈黙を回避する方法として,背景音の増加,充当詞のつけ加え,セリフの書き換えの3つの方法が用いられるが,最も多用されるのは,背景音の増加等の音響面の脚色であることも指摘した。 この試案に用いた音声編集ソフトは,観客の主観的な要素を加味しない機械的な音量比較のみを行うものである点に限界がある。ただし,データ収集の効率と客観性を高め,分析する作品数を格段に増やす効果が期待できる。今後も本研究を進めることで,詳細な事例分析に基づく研究をサポートする手段としての有用性と信頼度を高め,多重コード全体を翻訳対象とするAVT研究の底上げに寄与していきたい。
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