平成26年度は、本研究の最終年度に当たる。前年度までの資料調査の成果を整理するとともに、未調査部分の調査を進展させることに重点を置き、長期休業期を利用して、ポール・ヴァレリー『芸術論集』関連草稿資料(1923年から1935年までの作品草稿を収めたNAF19068、および1936年から1943年までの作品草稿を収めたNAF19069の二巻)が所蔵されているフランス国立図書館に赴き、確認と補足の作業を行うことができた。2013年9月にはヴァレリーの生地セート市のヴァレリー記念館で開催された第三回「ジュルネ・ポール・ヴァレリー」に招待され、青年期の恋愛と文学・芸術体験に触れた講演を行う傍ら、パリ第四大学教授のミシェル・ジャルティ氏と詳しい意見交換を行う機会を得ることができた。また、草稿資料等の実地調査の経験を十分に生かして、2013年12月に恒川邦夫氏との共訳による『レオナルド・ダ・ヴィンチ論 全三篇』を平凡社から刊行できたのは大きな成果であった。初年度に「ドガ ダンス デッサン」を中心とする『芸術論集』の主要テクスト、次年度に関連する草稿や書簡類をサーベイし、最終年度は全体の確認に加え、補足資料のサーベイと一部筆写を実現することができた。三年計画の本研究は、全体として、きわめて順調に推移し、とりわけ、研究成果を翻訳・解説書(2012年筑摩書房刊の『ヴァレリー集成V〈芸術〉の肖像』及び2013年平凡社刊の上掲書)の出版という目に見える社会還元のかたちで生かすことができた僥倖を心から喜びたい。今後は、本研究で収集した一次資料を十分に活用しながら、さらに広く、文化史的な観点から、ヴァレリーと文学・芸術の関係を考察していきたい。
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