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2013 年度 実施状況報告書

パスカル・キニャール研究:文学とジェンダーの新たな関係性に向けて

研究課題

研究課題/領域番号 23520363
研究機関筑波大学

研究代表者

小川 美登里  筑波大学, 人文社会系, 准教授 (80361294)

キーワードヨーロッパ文学 / フランス文学 / 現代文学 / 言語 / 芸術 / 批評 / 国際研究者交流 / フランス
研究概要

パスカル・キニャールの作品を通じてジェンダーの問題を再定義する本研究において、補助事業期間が延長されたため、26年度が最終年度となる。平成25年度においては、とりわけ、平成25年11月16・17日に申請者が主催した「パスカル・キニャール・文学の東方(Pascal Quignard : La Litterature a son Orient)」と題された国際シンポジウム(於:東京日仏学館)は、アジアにおいてはじめてパスカル・キニャールを広く紹介し、その作品を学術的に示す機会となった。フランス現代文学の在り方を東洋の視点と交差させながら多角的に評価する貴重な機会でもあった。
シンポジウムには作家パスカル・キニャール氏をはじめ、内外から研究者が参加し、活発な議論が行われたほか、現代日本文学におけるキニャール作品の受容と影響について考察するため、作家佐藤亜紀氏、小野正嗣氏による鼎談も行われた。キニャール氏による基調講演では、文学という語をめぐるヨーロッパの文学観が示され、言語・エクリチュール・イメージ・創造性をめぐる作家の深い省察の一端が示された。また、研究者による発表においては、キニャール作品を特徴づける異邦性・異他性との観点から、人間/動物の境界を攪乱する文学の在り方が確認され、エクリチュールという行為をとおして日常性と異邦性を往来する作家の態度が明らかにされた。また、ジェンダーと文学という観点から、イメージと言語の相克から生まれる作品の特徴についての議論がなされたほか、オリエンタリズムやポスト・コロニアル的な視点を越えた、東洋(西洋)への眼差しの在り方としての文学の可能性が示された。
このように、シンポジウムの成果は非常に大きなものであり、今後この成果を論集としてまとめるつもりである。
このシンポジウムに合わせてキニャールの代表作のひとつである『秘められた生』の翻訳を発表した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

ジェンダーという概念の再検討をとおして創造行為を理解・分析する概念として、生物学的・文化的な観点から生まれた性差の概念を応用することを目的とした本研究において、研究の最終年度となる今年度は大きな成果を得ることができた。
性差(ジェンダー)のテーマは、パスカル・キニャール作品の根幹に関わるものであることは明らかであるが、そうした根本的なテーマがひとつの源泉となって幾つもの支流を生み、それらが作品間で複雑に絡まり合い、呼応しているさまをより精確に分析し、それを具体的な形として提示することができた。
人類学的な見地と、哲学的な考察、想像的な領野(文学)の三つの柱の上に成立するキニャール作品によって、性差の問題は「誕生」の問題としてまずあらわれる。男女による異性愛が生み出す子(両親の性のどちらか一方しか与えられないひとりの存在)こそ、人間がもつ根源的な性差の形態である、とキニャールは考える。この根源的な性差の上に立つ人間存在は、その後さまざまな偶然の選択によって左右されることになる。たとえば言語。言語習得とは母の言語がたまたま子供に伝えられることを意味するが、ひとたびそれが「母国語」としての地位を獲得すると、そこに社会の命令や禁忌、規制が覆い被さり、個人をがんじがらめにしてしまう。こうして偶然的要素が必然的なものへと変貌する。パスカル・キニャールの作品は、ひとつの言語をベースとするテクストのなかに多様性や異他性・異邦性を積極的に持ち込むことによって、性差のテーマを浮かび上がらせる。キニャールの作品を特徴づける「異化作用」、「異他性」、「外向性」、「断続性」、「断片化」などのテーマはすべて性差の問題に帰着する。こうした内容を、平成25年11月16・17日に行った国際シンポジウムにて明らかにすることができた。

今後の研究の推進方策

前項目(「現在までの達成度」)において詳しく述べたとおり、研究テーマに対する達成度はたいへん満足のいくものであった。しかし、そうした成果を論集としてまとめる時間が足りなかったことが悔やまれる。また、国際シンポジウムを開くことによって、さらに新しい研究テーマが示され、ここに掲げたテーマをさらに深く掘り下げる可能性もでてきた。こうした新たな研究テーマは、当初申請者自身が気づかなかったものでもあり、より正確に言えば、三年間の間に研究を続けることによってより深い場所でねむっていたテーマに辿り着いたという事実を示すものでもある。これらはしたがって反省点というよりはむしろ新たに獲得されたテーマともいえるものであり、それをもとに今後さらに研究を続けるつもりである。その研究の具体的な方向性を以下に示したい。
1.キニャール作品の翻訳をとおして、作品の理解と普及を行う。
2.平成25年11月に行った国際シンポジウムの成果を論集としてまとめる。
3.シンポジウムを行うことによって改めて確認されたテーマ、新たに提出されたテーマの研究を続け、研究者や作家パスカル・キニャールとの対話を続ける。とりわけ、作家と共同で「文学の条件」に関するテーマを掘り下げていく。

次年度の研究費の使用計画

申請者が研究課題とする作家の都合により、研究二年目に行うはずだった国際シンポジウムは結局、研究最終年度の平成25年11月に行われた。シンポジウムの成果は非常に満足できるものであったが、その総括を行った際に、今後引き続き深めるべき課題や、研究者が当初掲げていた研究目的からさらに発展させるべき新たなテーマが見いだされた。したがって、研究三年目に使用すべき研究費を次年度に繰り越し、それを活用して、以上に述べたテーマを可能な限りさらに深める必要があった。
作家パスカル・キニャールと会見し、ジェンダーと文学の関係を成り立たせている諸条件について話合い、それを書物としてまとめるため、平成25年度3月にフランスへ出張した。
作家パスカル・キニャールをめぐる翻訳・エクリチュール・芸術というテーマで行われる国際学会にて口頭発表を行うため、平成26年度7月にフランスへ出張する。未使用額はおもにこれらの旅費にあてる予定である。

  • 研究成果

    (5件)

すべて 2013 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Vie secrete : de l'origine de l'amour2013

    • 著者名/発表者名
      Midori OGAWA
    • 雑誌名

      Litteratures

      巻: 69 ページ: 13-26

    • 査読あり
  • [学会発表] Le chant d'adieu

    • 著者名/発表者名
      Midori OGAWA
    • 学会等名
      Mireille Calle-Gruber ou les promesses de la litterature et des arts
    • 発表場所
      ソルボンヌ大学(フランス、パリ)
    • 招待講演
  • [学会発表] L'ode de Pascal Quignard

    • 著者名/発表者名
      Midori OGAWA
    • 学会等名
      Pascal Quignard : La Litterature a son Orient
    • 発表場所
      日仏会館(東京恵比寿)
    • 招待講演
  • [学会発表] "Ecrire sur le corps mort du monde" - sur Hiroshima, mon amour

    • 著者名/発表者名
      Midori OGAWA
    • 学会等名
      マルグリット・デュラス生誕100周年国際シンポジウム
    • 発表場所
      立教大学
    • 招待講演
  • [図書] 秘められた生2013

    • 著者名/発表者名
      パスカル・キニャール著、小川美登里訳
    • 総ページ数
      513
    • 出版者
      水声社

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公開日: 2015-05-28  

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