研究課題/領域番号 |
23520366
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
塩川 徹也 東京大学, 大学院人文社会系研究科, 名誉教授 (00109050)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | パスカル / 『パンセ』 / キリスト教護教論 / 人間学 / 編纂史 / 受容史 / 生成研究 |
研究概要 |
● 基本文献資料のリストを作成し、入手可能なものは購入した。7月25日から8月11日までパリに赴き、フランス国立図書館で資料調査を行った。とりわけパスカルがユダヤ教の「ラビの教え」に関する知識を得るために参照したレモン・マルタンの著作『プギオ・フィデイ』について調査を行い、いくつかの新知見を得た。なかでも原罪に由来する人間の本性の歪みを意味するためにパスカルが用いた "figmentum malum" という表現の典拠がこの書にあるという発見は、彼の人間学の基盤を考える上で貴重な手がかりを与えるものである。● 代表者がこれまでフランス語で発表した論文――その多くは、パスカルはいかなる護教論を構想し、そこにいかなる意味と価値を見出していたのかという問題意識に導かれている――をまとめて論文集として公刊する準備を進め、年度末までに初校の校正を終えた。本書は『権威――理性と信仰の狭間』という題名でパリのシャンピオン書店から近く刊行される予定である。● 『パンセ』の編纂の歴史を概観することを通じて、歴代の編纂者たちが、それにいかなる意味と価値を与えようとしていたかを粗描したフランス語の論文 「パスカルの『パンセ』――「中断された作品」の生成論」を文学作品の生成学をテーマとする論集に寄稿した。またアンチパスカルの筆頭であるヴァレリーとパスカルの「対決=対話」に考察を加えた小文を発表した。● 「〈わたし〉とは何か」という問いにパスカルとデカルトがどのように答えたかを詳細に検討することを通じて、両者の思想、とりわけ人間学の相違とその意味を考察した論文を『デカルトをめぐる論戦。小林哲学・論駁と答弁』(京都大学学術出版会、近刊)と題する論文集に寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『パンセ』の編纂史と受容史を踏まえて、パスカルの著作の意味と価値を考えるという目標に沿った研究は順調に進展し、少なからぬ成果が挙がった。ただし研究代表者自身のパスカル解釈の問題に力点を置いたため、受容史については、本格的に着手することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
基本的には、本年度に得られた結果を基にして、17世紀後半から19世紀にかけての『パンセ』の編纂と受容の歴史の探究を進める。一方、次年度はパスカル没後350年に当たり、多くの記念行事が企画されており、研究代表者もパリで開催される二つの研究集会で、研究成果の一部を発表する予定である。また、『パンセ』及び『プロヴァンシアル』のテクストについては、長年待望されていたメナール教授の批評校訂版の刊行が昨年、教授自身から予告された。もしもそれが実現すれば、『パンセ』の編纂史上、画期的な出来事であり、その成果を踏まえて研究計画を考え直す必要が出てくるかもしれない。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では、次年度は人件費・謝金を計上していなかったが、上に記したとおり、フランス語による口頭発表を二度行う予定があり、そのための原稿の校閲謝金を6万円程度計上しなければならなくなった。そのことを見越して、本年度は物品費とその他を節約して、3万円弱を繰り越した。当該繰越は、謝金の一部に使用する。
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