本研究では、主に19世紀後半の植民地主義時代の文学に限定し、エキゾチシズムの因果関係を検討したが、次の二点について疑問を残すことになり、世紀前半に立ち戻る必要を感じた。一点目はガイドブックの役割、二点目は「観光」と「観光客」の語の定義である。旅と文学を考察する場合に、これまで十分に光が当てられてこなかった観光と文学の影響関係に、新しい研究の意義を見いだした。 エキゾチシズムにとらわれるのは「ツーリスト」の特徴である。「観光客」(touriste)の語は英語(tourist)から導入されたが、1816年におけるフランス語文献での初出では「イギリス人旅行者」を指していた。19世紀を通して旅の文脈の変化、ひいては旅行者の行動様式の変化にあわせて語のコノテーションが変化し、現在では一般的に「旅行者」の意味で使用されている。フランス19世紀中葉までの文献、特に旅行記に現れる〈touriste〉の語を拾い上げ、この語の指示対象を丹念に追い、付与された意味を検討することで、ヨーロッパにおける近代ツーリズムの勃興期の特質を抽出できるのではないだろうか。この問いに対する考察を「旅行者かツーリストか? 十九世紀前半フランスにおける"touriste"の変遷」(『共立女子大学文芸学部紀要』第60集、平成26年、1月発行、17~35ページ)に発表した。 また、最終年度に行ったその他の研究として、エキゾチシズムを生み出す旅と、それを表象する文学という行為に絞って行ったことが挙げられる。2013年度フランス語フランス文学会秋季大会のワークショップでは、「旅と文学」というテーマで発表を行った。
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