研究課題/領域番号 |
23520371
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
山口 裕之 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (40244628)
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キーワード | ベンヤミン / 救済 / ユダヤ主義 / 時間概念 / キリスト教 / 技術性 / 身体性 / 魔術性 |
研究概要 |
平成24年度は、西欧ユダヤ主義における「救済」概念の分析を中心とした研究、とりわけショーレムの『ユダヤ主義の基本概念』、『ユダイカI・II』、ブロッホ『ユートピアの精神』、ローゼンツヴァイク『救済の星』のテクスト分析、それらに関する二次文献の整理、そしてそれらの考察をまとめた論文執筆を予定していた。テクストの分析・整理に関しては、かなりの程度、予定していた量の作業を進めることができ、さらに研究の過程において、今回の研究課題にとって重要性をあらたに認識することになったいくつかのテクストに深く取り組むことになった(とりわけアガンベン『残りの時』、大貫隆『イエスの時』、ステファヌス・モーゼス『歴史の天使』)。 これらのテクストの分析を通じて光を当てたいと考えているのは次の点である。20世紀前半の(ドイツ系)ユダヤ人にとって、「救済」をめぐる思考は彼らの思想の中で中心的な位置を占めている。問題はその思考が、彼らのおかれた実際の歴史的・社会的状況に対する一つの解決という形をとりながらも、他方では一見現実的状況から遊離した神学的問題にかかわっていることにある。この神学的問題を単なるメタファーとして扱うのではなく、まさに神学的思考に正面から取り組むこと、さらにそれを当時の近代技術をめぐる思考と接合させてゆくことが今回の研究課題の眼目となることだが、この神学的思考における中心問題となるのが、「時間」をめぐる思考である。ユダヤ教およびキリスト教における「救済」の問題においては必然的に、時間の流れとして把握される「歴史」と、いわば無時間的な神の領域がどのようにかかわってくるかが問題となる。そこでは西洋近代の思考において想定されるのとはまったく別種の時間に対する概念が必要となる。 今年度の研究では、そのもっとも重要な研究の基盤を用意することができたが、論文執筆はまだ途中の段階となっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究で予定していたテクストについては、ほぼ予定通り、分析・整理を行うことができ、さらにその過程で新たに重要なテクストを取り上げることができた。最終的にそれをまとめるはずの論文「ベンヤミンにおけるいくつかの時間モティーフについて」が完成していないという点では、完全に予定した研究を達成することができていないが、全体の流れとしては、研究はかなり順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、当研究課題における最終年度となる。まずは、現在執筆中の論文を完成させるが、むしろより大きな目標は、この研究課題全体にとってのまとめとなる著作を完成させることである。この研究は、これまでのベンヤミンにおける歴史概念、メディア概念を包括するものであり、一方ではベンヤミンにおける神学的時間概念(西欧近代の時間概念にとっては「無時間的」ととらえらえるような時間概念)と、他方では「魔術的」なものの対極に位置づけられるはずの技術性をめぐる思考という両極を接合し、20世紀初頭における重要な思想の方向を提示することが、ここでのもっとも重要な試みとなる。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度となる平成25年度は、研究全体を包括する著作の執筆のために、引き続き西欧ユダヤ主義関連、ベンヤミン研究関連、メディア理論関係等の文献を購入する。また、それらの研究のために必要な機器の購入、および研究調査のための旅費を予定している。 平成25年度も、研究補助のために予定していた大学院生が留学のため、謝金は予定していない。ただ、可能な状況になれば、もちろん積極的に活用していきたい。 いずれにせよ、必要な文献の購入と機器の購入、出張費のために予定されている70万円を有効に使用することについては何の問題もない。
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