研究課題/領域番号 |
23520372
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
山崎 太郎 東京工業大学, 外国語研究教育センター, 教授 (40239942)
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研究分担者 |
市川 伸二 東京工業大学, 外国語研究教育センター, 教授 (20176283)
安徳 万貴子 東京工業大学, 外国語研究教育センター, 准教授 (70585132)
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キーワード | 国際情報交流(オーストリア) |
研究概要 |
(全体)研究代表者および分担者3名で数度の勉強会と情報交換会を開き、各個人の研究の進展その他を確認し、新たに購入すべき文献の選定を行なった。以上を踏まえ、 山崎は3月、ヨーロッパ、およびトルコへ出張。パリ・フランス国立図書館研究者棟で、18世紀の新聞数点を閲覧し、オスマン・トルコ関連文献の所在を調査したあと、ウィーンのオーストリア国立図書館の古文書資料室で18世紀までに出版されたオスマン・トルコ関係文献数点を閲覧、研究テーマに関連する記述を発見・選定して、複写を持ち帰ることができた。また、その途中に立ち寄ったトルコ・イスタンブールでは巨大な建造物を見学し、18世紀以前のイスラム文化の圧倒的優位について、認識を新たにすることができた。 市川は3月、ホフマンスタールと東洋との関連を生み出した当時の言語哲学文献資料を閲覧・収集するために、ウィーンのオーストリア国立図書館に海外出張した。また、リルケとロシアの関係を、当時のロシアの側から理解するために、当時のリルケに関わった文学文献(例トルストイ、パステルナーク)を収集し、分析した。同時にカフカの『審判』を研究し、論文に仕上げた。 安徳は、ホーフマンスタールのギリシア悲劇改作のなかから、とくに『オイディプスとスフィンクス』に焦点をあて研究を進めた。本計画開始時には『エジプトのヘレナ』を考察する予定であったが、東洋的素材というテーマからも、またヨーロッパの文化史という観点からも重要な神話である「オイディプス」に、ホフマンスタールがいかに取り組んだかを考察することが、本研究にとって最重要課題と考えるにいたったためである。この軌道修正とともに、前年度のオーストリア渡航によってすでに十分な資料を得たため、今年度は渡航をとりやめ、国内での研究に従事した。その成果は、日本オーストリア文学会にて口頭発表し、さらに論文として発表した(「研究発表」参照)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
山崎、市川は出張先での資料収集、フィールドワークに一定の成果を上げることができた。山崎はウィーンではオーストリア国立図書館で研究テーマに関連するオスマン・トルコ関係古文書数点を部分的に複写し、持ち帰ることができた。また、アルジェリア行きは治安悪化のため、断念せざるをえなかったものの、トルコ・イスタンブールではモスク、後宮等の巨大な建造物を見学し、市内の景観ともども、モーツァルトの時代のイスラム圏とヨーロッパ・キリスト教圏の文化的進展度や力関係についての認識を改める機会となった。 市川は、ウィーンの国立図書館でホフマンスタールと東洋に関する文献、リルケとロシアに関する文献を閲覧し、双方のテーマに関する認識を深めた。更にハプスブルクのプラハに暮らした世界的作家カフカの『審判』のテクストを交流と境界を手がかりに分析し、「浮遊する交流」という論文に仕上げた。 安徳は平成23年度のウィーン出張で当該研究テーマに関し、予想以上の進展があったため、今年度は出張の予定を変更して国内での研究に集中し、費用の一部を関係文献の補充にあてた。その成果を、上記講演会にて口頭発表し、参加者との活発な議論によって考察を深めることができた。さらに同テーマを論文としてまとめ、公表するなかで、本研究計画段階で意図したよりも、いっそう直接的な道筋で、ホーフマンスタール作品における東洋(ギリシア)文化の意味に目を開くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年となる次年度は過去二年の研究成果を各自が論文のかたちで執筆し、報告会を行なうとともに、『ドイツ文学』『ポリフォニア』(東京工業大学外国語研究教育センター、審査付学術研究誌)への投稿を行ない、総合テーマ論文集としての著作出版の方途を探る。 山崎は文献・映像資料の最後の補充をした上で、過去2年間の資料収集と解読作業を踏まえながら、大部分の時間を成果発表のための執筆に当てることになる。 市川はホフマンスタールにおける東洋を考究しつつ、同時にカフカの『審判』のテクスト分析し、作品内のヘブライ的東洋性を考察する。また、ロシアの形象イメージ(風景)を具体的に把握するために、リルケの訪ねたモスクワ、サンクト・ペテルブルクを訪問し、風景論的な現地調査を行なう。 安徳はホフマンスタールの講演を題材に、過去二年間の研究の集大成を行なう。ホフマンスタールの言語観・文学観・ヨーロッパ観の最終的な結節点として重要な『国民の精神的空間としての著作』は、もっぱら政治的側面に重心をおいて読まれてしまい、その思想が具体的にどう作品を形成しているか、つまりはこの思想が創作においてどれほど根本的であったかはいまだ十分な研究がなされていない。この講演の内容を、前二年度の研究成果にフィードバックする形で作品論を統合しつつ、「東方」への眼差しを必然的な原動力とするような文学的理想の、最終的な展開を明らかにする。その成果を国内の全国誌『ドイツ文学』に投稿する。 *なお、平成24年度に安徳のオーストリア出張による旅費の使用を計画していたが、計画を変更し、安徳は国内での研究に専念することになったため、残額が発生した。発生した残額は研究文献の補充購入およびハプスブルク文化の専門家を招いての研究会開催のための原資とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は市川がロシアでの資料収集・現地調査のために40万円の使用を見込み、残りの36万余円を、文献購入と国内学会出張およびハプスブルク文化の専門家を招いての研究会にあてる。
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