(全体)研究代表者および分担者3名で情報交換会を開き、各個人の研究の進展その他を確認、本科研集大成の年となることを意識しつつ、過去数年の研究成果を踏まえ、大きな発表のためのまとめあげに専念した。 山崎はトルコおよびオリエントを題材にした数多くの歌劇作品の音源・台本および同テーマをめぐる欧米の研究書・論文を調査、平成25年度から引き続いて行なったアルジェリアの港湾都市オランをめぐるスペイン対イスラム教徒の攻防、アフリカ北部地中海沿岸の海賊の実態についての資料調査の成果とともに、すべてをもう一度「モーツァルトの歌劇《後宮からの逃走》における幕切れの書き換え」というテーマのうちに統合し、位置づけたうえで、その成果と今後への展望をまずは研究発表としてまとめた。 市川は、ハプスブルク文学に属する作家カフカの作品『審判』における交流問題を、階段形象を中心に分析し、その際、ヘブライ・ユダヤ、更にはロシアといった「東方」の テクストにおける階段のイメージと比較・検討することによって、その特性を解明した。また、「リルケとロシア」のテーマに関しては、引き続き資料収集を続け、論文の基本構想を固めつつあり、来年度以降論文を発表する予定である。 安徳は、ホフマンスタールの「東方への眼差し」を歴史的に捉えるため、18世紀以降、西洋が東方文化を吸収する素地を築いたヘルダーに遡った。同じ主題(言語論・彫塑論)に異なる迫り方をする両作家を比較することで、ホフマンスタールの文学の核にある「主客の分離」といった認識上の枷が浮かび上がった。(この成果を「ホフマンスタールの世界像」論として発表した。)東方への関心を軸に、ホフマンスタール・ノヴァーリス・ヘルダーの知覚論・世界史観を対照し、予定より長いスパンで論文執筆を進める計画である。
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