研究課題/領域番号 |
23520376
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村瀬 有司 大阪大学, 世界言語研究センター, 准教授 (10324873)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | トルクァート・タッソ / 詩論 / 模倣 / 想像・空想 / 16世紀イタリア / ルネサンス詩学 |
研究概要 |
平成23年度は、タッソの後期の創作理論において、「模倣」と「想像」がどのような関係にあるかを検証した。1580年代以降の詩論において、タッソは「模倣」を重んじる立場から空想的な詩人を非難しはじめる。『英雄詩論』においては、「ソフィスト」という用語を肯定的に使用して詩人の空想を擁護した同時代の文人ヤーコポ・マッツォーニを批判している。本年度はこのマッツォーニの『ダンテ擁護論』(La difesa di Dante)の関連個所を精読しながら、詩人の想像力に対する両者の捉え方の違いをまず整理した。 同時に、晩年の『エルサレム征服の考察』を参照しながら、タッソが、ソフィストの恣意的空想とは異なるものとして詩人の想像力を位置づけるべく、アレゴリーを導入している点を確認した。タッソの場合、アレゴリーの導入によって、想像力を宗教的な方向に誘導している点に特徴がある。タッソは、感覚によっては把握できない宗教的真理を、可視的な存在を介して表現することをアレゴリーの特性と見なし、そのアレゴリーを生みだす力を詩人の想像力として位置付ける。そしてアレゴリーによって表現される真理をイデアと規定する。このイデアの導入は、詩人の想像の営みを、模倣のプロセスに組み入れるにあたって重要である。タッソにとっての模倣は、事物からその像を生み出すプロセスに他ならないが、プラトン以来、このプロセスは、イデアから見れば像の像にすぎないものを詩人が複製しているという批判を招いてきた。この批判に対してタッソは、宗教的真理をアレゴリーの対象とすることで、詩人の想像力並びに模倣という創作原理に存在の基盤を確保しているのである。 23年度は、このようなアレゴリーをめぐる方向性を検証する一方で、副次的課題としてタッソの実作品『エルサレム解放』における比喩の問題を考察し、この成果を学術論文として公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
タッソの詩論における「模倣」と「想像」の関係については、後期の創作理論を精読することによって一定の分析を行うことができた。一方、タッソが「ソフィスト」という用語をめぐって批判を加えたJ.マッツォーニの『ダンテ擁護論』については、タッソの議論と関連する重要個所の検証を完了し、かつ複数の学術論文を通じてこの問題に対する理解を深めたものの、マッツォーニの理論書全体の検証には至っていない。このため、詩人の想像力に関するタッソとマッツォーニの見解を実証的に比較照合するにあたっては、なお若干の時間が必要となる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
引き続いて、研究対象となるテキストを丹念に読み込みながら、16-17世紀のイタリアの詩論における「模倣」と「想像」の問題を検証していく。平成24年度は、G.マリーノとE.テザウロの著作に研究対象を拡大しながら、詩人の想像力が創作理論・修辞理論のなかでどのように位置づけられ評価されているのかを明らかにする予定である。 なお、研究対象となるテキストの入手・分析が遅れた場合は、研究方針に支障がでない範囲で、分析するテキストをさらに絞り込む予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度も引き続いて、本研究に必要不可欠となるイタリア語テキストの入手に努める。今日の刊行本だけではなく当時の印刷本あるいは写本資料についても、必要に応じて、現地の図書館・研究機関に複写の依頼をしていく。これらのテキスト購入のための費用が平成24年度の支出の主たる項目となる。また、国内の研究機関での資料収集のために、若干の旅費を計上する予定である。 その他、資料の整理・論文の執筆に必要となる機器の購入のために一定の出費を計上する見込みである。
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