今年度は、16世紀後半から17世紀前半にかけてのイタリアにおける模倣と想像力の関係の推移を、修辞学の視点から考察した。具体的には、16世紀後半を代表する詩人トルクァート・タッソと17世紀の文人エマヌエーレ・テザウロの、インプレーザの創作理論に着目しながら考察を進めた。 インプレーザは、ある対象を別の事物の姿形によって象徴的に表現する。この象徴的な図案は詩におけるメタファーに相当するものであり、タッソをはじめ多くの詩人がインプレーザの作成に携わると同時にその創作理論を書き残している。タッソのインプレーザの創作理論において重要なのは、「似ている類似」と「似ていない類似」という二つの方法を設定し、前者を、世俗の対象を感覚にはたらきかけて表現するもの、後者を、神聖な対象を知性にはたらきかけて表現するものとして捉えている点である。タッソは、世俗の対象を表現するものとしてインプレーザを捉えており、その作成にあたっては「似ている類似」の使用を訴える。つまり対象とかけ離れた、知性を駆使しなければ理解できないようなシンボルではなく、感覚によって捉えることができる、対象と類似したシンボルを使用するべきだと訴える。研究では、このタッソの考え方の背後に、彼の詩論の重要概念である「模倣」に見受けられるのと同じ特色、つまり事物と像の調和的な関係を重視する傾向を確認した。 一方テザウロは、タッソの考え方を一部取り入れつつも、対象とそのシンボルの予想外の関係をより重視する。見るものに驚きを与えるような対象と像の間の意外な結びつきが、バロックの文人が重視するインプレーザの特色の一つとある。テザウロにとって想像力は、一見したところ関係のない二つの要素の間の密かなつながりを発見する力に他ならない。 以上の点に着目しながら、16世紀後半から17世紀にかけてのイタリアの文人の想像力に対する見解の推移を検証した。
|