研究課題/領域番号 |
23520377
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山上 浩嗣 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (40313176)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 無知 / 狂気 / ラ・ボエシ / モンテーニュ / ジャンセニスム / 習慣と自然 / フェヌロン |
研究概要 |
本研究課題の三つの主要な方向性、1)パスカル人間学の総合的研究、2)パスカル人間学の「起源」の研究、3)パスカル人間学の「影響」の研究、のうち、今年度は、1)に関して、「パスカルにおける『無知』と『狂気』」という主題に取り組んだ。プラトンは「無知」と「狂気」を「魂の病」(『ティマイオス』)と呼ぶが、パスカルは『パンセ』のなかで、これらにむしろ高い価値を与えている。興味深いこれら二概念の相関関係について考察することで、パスカルの思想の独自性に光を当てられると考えている。論考は平成24年度中に発表予定である。また、私の博士論文(フランス語)に若干の加筆修正を施したものを『大阪大学大学院文学研究科紀要 モノグラフ編』として刊行した。以後、本論の日本語版の執筆に手をつけたい。 2)に関してはモンテーニュ『エセー』の読解および、エティエンヌ・ラ・ボエシ『自発的隷従論』ならびにデカルト書簡集の翻訳に取りかかった。ラ・ボエシの翻訳書は平成24年度中に刊行予定である。ラ・ボエシの「習慣」や「自然」の観念は、モンテーニュを介してパスカルにも受け継がれていることが明らかになった。一方、自発的隷従を悪とみなすラ・ボエシと、内戦を回避するためにマキャベリズムをも許容するパスカルの政治思想とは際立った対照を見せている。 3)については、「一七世紀パリにおける宗教と政治―ジャンセニスムとパスカル」と題する論考を、下記図書『境界域からみる西洋世界』に発表した。パスカルの時代の政治的状況を考察しておくことは、本研究課題遂行の上で必須の要件であり、このように早期のうちに論文としてまとめることができたことは意義深いと思われる。なお、パスカルと同時代の政治思想の検証を主たる目的として、フェヌロン『テレマコスの冒険』の翻訳にも取りかかったが、今のところ十分な進捗は見ていない。今後も作業を継続する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画は、当初以下の通りであった。 (1)博士論文の日本語版執筆に着手し、半分程度を仕上げる。単純な日本語訳ではなく、専門外の読者にも興味がもてるように内容を簡略化する。(2)「パスカルにおける<無知>と<狂気>」に関する論考を、大阪大学文学研究科紀要、または大阪大学フランス語フランス文学研究会機関誌Galliaに発表する。(3)パスカルによるモンテーニュ思想受容の研究の準備段階として、モンテーニュにおける地上の生の意義について考察を開始する。(4)次の拙論をもとにして、ラ・ボエシ『自発的隷従論』の翻訳および解題作業を完成させる:「エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ『自発的隷従論』(解説・訳・注)」(一)~(三)、『言語と文化』第7,8,10号、関西学院大学言語教育研究センター、2004, 2005, 2007。(5)デカルト著作集の翻訳作業に従事する。(6)『ポール=ロワイヤル論理学』の翻訳および解説作業に従事する。(7)『テレマコスの冒険』の翻訳および解説作業に従事する。 このうち(3)、(4)、(5)、(7)については予定通り進捗したが、(1)、(2)、(6)については作業が遅れている。しかし、予定外の論考(しかし研究課題に深く関係する)を3本仕上げ、刊行することができた。よって、おおむね順調な進展であると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、進捗が遅れている作業のうち、(1)博士論文の日本語版執筆、および(2)「パスカルにおける<無知>と<狂気>」に関する論考にとくに力を入れて取り組みたい。また、(5)デカルト著作集の翻訳作業を完成させたい。同時に、モンテーニュ『エセー』および『ポール=ロワイヤル論理学』の読解も地道に継続する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
主としてフランス近代文学・思想関連資料、ノートパソコンおよび関連物品の購入に使用される。また、9月にはパスカル没後350周年のシンポジウムがフランスのパリ郊外で開催されるので、資料収集をかねてその時期に当地への出張を予定している。
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