研究課題/領域番号 |
23520382
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
GRECKO Valerij 神戸大学, 国際文化学部, 非常勤講師 (50437456)
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キーワード | アヴァンギャルド芸術 / ロシア文学 / 記号論 / 国際情報交換 / ロシア:ドイツ:セルビア |
研究概要 |
本研究は、アヴァンギャルド芸術について普遍的な考察を可能にする美的概念を規定することを課題とする。24年度の課題は、前年度に文学テクストを分析することによって明らかになったメルクマールと創作原理が、その他の芸術活動においてどのように発現しているかを検証するとともに、ロートマンやマレーヴィチの文学・芸術理論についての理解を深めることだった。研究の成果は次の通りである。 1.1920年代に活躍した画家のマレーヴィチは理論的な著作も書き残しているが、その芸術論はロシア・フォルムリズムの理論と共通点を多く持つと同時に、現代の認知科学が展開する芸術論の先駆ともなっている。 2.ロシア・フォルマリストたちの理論におけるキー概念のひとつである「ドミナンテ」は、文学のみならず他の芸術分野でも非常に重要な役割を果たしている。「ドミナンテ」はひとつの芸術作品の特徴を決定する中心的な要素であるが、これはひとりの芸術家のスタイルを決定する要素ともなっている。 3.ロシア語現代詩においては、他の芸術分野に特徴的な要素(視覚的・動的要素などの非言語的要素)がますます多く見られるようになっている。詩は純粋に言語的な芸術から複合的芸術へと発展しつつある。 4.ロートマンのコミュニケーション理論は芸術の基礎理論として応用可能である。なぜなら、芸術も一種のコミュニケーションだからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
24年度の課題だった、文学テクストの分析から抽出したメルクマールと創作原理の、その他の芸術活動における発現の検証に関しては、計画通り進捗している。当初の計画では、マレーヴィチの画業のみを考慮に入れるつもりだったが、彼の芸術理論が非常にすぐれたもので、現代の芸術理論に通じるレベルのものだとわかったことが大きな収穫だった。 前年度に引き続き、24年度も国際会議で研究成果を何度か発表する機会に恵まれた。特にベオグラードで開催された国際会議では、イタリアの著名なアヴァンギャルド研究者ルイジ・マガロットに会って意見交換を行うことができたことが大変有意義だった。また、論文も4本執筆することができ、日本のみならずドイツ、セルビア、ロシアで出版された論文集に収録されたことは大きな成果だった。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は、特定の言語文化圏を超えたアヴァンギャルド芸術の特徴に関して考察し、23年度と24年度の研究成果を国際的なコンテクストで比較検討する。その際、どの特徴や原則がロシア・アヴァンギャルドに固有のものか、あるいは文化圏を超えて存在しているものなのかを考察する。 主な分析対象となるのはイリヤ・ズダニエヴィチである。ズダニエヴィチは詩人であると同時に、マルチに活躍した芸術家で、アヴァンギャルド的実験はロシアで始めたが、パリに亡命してピカソやマックス・エルンスト、アンリ・ブルトンらと親交を結び、彼らと協力していくつかのプロジェクトを遂行している。ズダニエヴィチについて研究を進めるために、パリ・ソルボンヌ大学(フランス)の研究者たちと密接にコンタクトをとる予定である。 研究成果はパリ等で開催される予定の国際会議で発表し、論文にまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
歴史的に希少な資料の収集については早稲田大学演劇博物館、ボッフム大学ロートマン研究所(ドイツ)、ベルリン自由大学(ドイツ)、パリ・ソルボンヌ大学(フランス)などの協力を得る(国内旅費、外国旅費、コピー代)。ズダニエヴィチをはじめとするアヴァンギャルド芸術家に関して、カトリーヌ・デプレット教授(パリ・ソルボンヌ大学)、ナターリヤ・ファティエヴァ教授(ロシア科学アカデミー)、ゲオルク・ヴィッテ教授(ベルリン自由大学)らと意見交換を行う(外国旅費)。研究に必要な書籍で入手可能なものは購入する(設備備品費)。研究成果については国際会議等で発表を行い(外国旅費)、論文にもまとめる(コンピュータ関連消耗品費)。
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