最終年度となる平成23年度も、予定通り、ヴァルヴァンのマラルメ記念館の蔵書調査を継続すると同時に、膨大な書誌データを整理・確認しつつ、『ステファヌ・マラルメの書斎』公開に向けて着々と準備を進めることができた。今年度は特に、オークションや古書店カタログだけでなく、個人蒐集家等からの好意的な情報提供のおかげで、詩人旧蔵本の具体的な情報を新たに付け加え得たという収穫があった。300頁を超えることになった『ステファヌ・マラルメの書斎』は、未発表資料もわずかながら含まれ、本研究の大きな成果と言える。温かく手助けしてくださった方々、特に記念館のスタッフにはお礼を申し上げたい。 我々の仕事によってマラルメの蔵書すべてが明らかになったわけではもちろんなく、それどころか調査を進めるほどにまだまだ埋めるべき空白が多いことに気づくこととなった。とはいえ、書物を基盤とした「精神の握手」による文芸共同体の姿を推し量るための十分な基盤がひとまず出来上がったと思われる。ウェブ上で公開される蔵書データの方は今後も新たな発見があるたびに更新され続け、いつの日か、詩人の書斎が仮想的にではあるが再現されることになろう。また、我々の書誌を活用して、マラルメ研究、さらには19世紀末フランスにおける文化研究の新たな可能性を開く者が現れてくれることを期待したい。 論文を1本書き、3つの発表を行なったが、今回の成果を公にしたというよりは、それぞれの議論の下支えに我々の研究による知見をやや活用したにすぎないと言えよう。データ整理の終わった今、マラルメが夢想していた「文芸共同体」の内実について、そして彼の思考形成の一端についても、詩人自身の書斎という場からようやく本格的に議論を始めることができるのである。方法論を練り上げつつ、本研究の成果を基にした仕事を今後も公にしていくつもりである。
|