研究課題/領域番号 |
23520389
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
阿尾 安泰 九州大学, 言語文化研究科(研究院), 教授 (10202459)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 18世紀 / フランス / ジュネーヴ / ルソー / 演劇 / テイソ / パリ / フーコー |
研究概要 |
ティソの『オナニスム』の翻訳は完成し、国書刊行会から出版した。それにより基本的な文献でありながら、翻訳がなかった同書が幅広い層の研究者たちから読まれることが可能になった。さらに、翻訳にともなって作成した医学関係者人名データベースを自分のホームページ上に試験的な形で公開し、研究用の資料として提示するとともに、研究者たちからの指摘を受けながら、適宜更新していくこととした。 また平成23年7月オーストリア、グラーツで開催された国際18世紀学会に出席し、フランス人研究者とともにシンポジウムを行った。そこでの発表において、海外の研究者から有益な意見、指摘を受けることができた。そしてそこで行われた他のシンポジウムに参加することで、研究上の有益な情報を多く入手することができた。さらに研究参考文献にかんする貴重な情報も得ることができた。なお今回は国際18世紀学会参加が主な目的であり、海外資料調査については平成24年度に行うことにした。 ティソについては、彼の医学文献を参考にしながら、18世紀の健康政策とそれを支える思考の枠組みなどを、フーコー、ベンガーなどの指摘を踏まえて、研究し、それを主題としたフランス語論文を1本作成した。またルソーの演劇モデルと作品との関係については、最近のルソー研究を出来る限り参照し、理解をふかめるとともに、特に『ダランベール氏への手紙』、『エミール』、『山からの手紙』、『対話』などの作品の分析に注目することとした。さらに18世紀演劇について、より深い理解を得るために最近の18世紀演劇史に関する研究を追求していくことにした。そうした中で18世紀研究全般にかんする日本語論文1本を作成した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的に挙げた『オナニスム』の翻訳については、これまでかなりの歳月をかけてきたが、部分訳ではなく完全訳として、人名索引も付けた形でついに完成した。これにより研究において、言及されることはあっても、完全な訳がないために不十分な形でしか紹介されてこなかったものが、そのコンテクストとともに明確な形で利用できるようになったことの価値は大きいと思われる。 また国際18世紀学会においても、たんなる参加ではなく、シンポジウムという企画をもっての参加の価値は評価出来ると思われる。シンポジウムを企画したおかげでフランス人研究者の参加を得ることができ、討議も活性化したと思われる。そして、聴取者からの有益な指摘も重要であった。 ティソ研究においては、現在重要な文献を選択整理しているところであるが、その数の多さと専門性によるために、もうしばらく時間が取られるかと思われる。さらに、その当時の医学的位置づけのために、参照すべき他の医学的な文献の選択にももうしばらくの時間を要するものと予想される。今年度は文献の整理段階とみなすことができる。ルソーについてはその膨大な作品群の中から、演劇モデルの指摘しやすい作品の選別に着手するとともに、その主題に関連した諸研究を集めている。文献の精読に平成24年度があてられると思われる。演劇という問題はルソーだけ見ていては不十分なので、最近の演劇史の新しい研究文献を整理中で、この精読も平成24年度の課題となるかと思われる。
|
今後の研究の推進方策 |
ティソ関連文献を、当時の医学書および彼を批判した19世紀の医学書を参照しながら読み込んでいく。ティソの枠組みとそれ以降の枠組みを比較しながら、彼の視点の特異性を明らかにしていく。そして、その特異性がルソーの作品読解に新しい見方を開く可能性を考えていく。ルソーの文献を、当時の演劇にかんするビジョンを参考にしながら読み込み、その作品を支える枠組みの独自性を考察していく。 研究成果をある程度踏まえた上で、研究会発表、あるいは学会発表ないしはワークショップを行う。時期としては春の学会よりは余裕があり、準備に時間がかけられそうな秋の神戸大学において行う予定である。内容としては平成23年にオーストリア、グラーツで行った国際18世紀学会での発表を踏まえて、それを諸研究者の意見を取り入れながら、改めたものとなる予定である。発表はいずれの形を取るにせよ、発表した後には18世紀フランス研究会のHP上で公開するものとする。 平成23年度に行えなかった海外研究資料収集を行う。主な場所はジュネーヴとパリとなる。ジュネーヴではルソー、ティソ関係の資料の収集およびジュネーヴ市が所蔵する古文書の閲覧調査を行う。パリでは、国立図書館を中心にして、ルソー、ティソ関連の研究文献資料に加えて、19世紀の医学文献の調査を行う。また時間的に余裕があれば、ジュネーヴ、パリで現地研究者と交流を行い、研究上有益な情報を得ることも予定している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究文献としてティソ、ルソー関連の文献をそろえるのはもちろんであるが、18世紀という全体の中で問題を考えていくために、この二人以外の主要な著作家の作品およびその研究書をそろえていく。具体的には、ルソーと同じく演劇的な問題の重要性を考えていたディドロが挙げられる。そして演劇という問題はこの時代において、言語をめぐる問いかけと切り離せなかったので、言語の問題に新たな境地を開き、ルソーとも親交のあったコンディヤックも外すことはできない。さらに演劇、言語に対する問いかけは、たえずその領域における整合性のある秩序構築という問題を呼び起こした。つまり論理的な説明を可能にする安定した体系の追求という形を取った。そうした探求のひとつとして唯物論的な試みがあり、その中でドルバックを考えている。またそうした文献に加えて、海外図書館の所蔵する資料でコピー等が可能なものは複製希望を提出してそろえていきたいと考えている。 また昨年度は行えなかった海外における資料収集を予定している。ジュネーブにおいてはジュネーヴ大学の図書館で研究文献を、ジュネーヴ市庁舎では歴史的な資料を収集する予定である。また時間的に余裕があれば、ヴォルテール博物館に所蔵の資料も閲覧する予定である。またパリにおいては、国立図書館での資料収集が主な活動となるが、時間があれば、他の図書館での資料収集にも努めたいと考えている。そうした海外での活動に加えて、平成25年度に研究者たちと日本フランス語フランス文学会でのワークショップの開催を予定しているので、その打ち合わせと準備作業を東京で行う。
|