最終年度おける作業も、初年度におけるテクスト選定以降の作業と基本的には同一であった。即ち、ジャンル混交の様相が見いだされる可能性の高いテクストを選び、文献学的基礎作業の上に立って綿密に読解し、多様な角度からの比較研究を継続して行った。すなわち、その具体的な研究手順としては、当該テクストが異質なジャンルの要素のうち、措辞・語法、修辞技法など文体論的な要素や、モティフ、トポス、構成など内容的な要素のいずれを取り込み自らの作品に活かしているか、単に部分的な比較ではなく、作品全体の中に関連箇所を位置づけつつ観察し、分析・検討する、というものである。こうしたテクストの読解と分析・考察の作業を、韻文作品と散文作品とを問わず、古典文学における主要な文芸ジャンルの内から選定した複数の作品に関して積み重ねることにより、作品ごとの特色だけでなくあるジャンルの伝統とその変容として考察することを試みた。本年度特に力を注いだのは、小池は昨年度に引き続きアイスキュロスを中心とするギリシア悲劇とキケローやリーウィウスの散文、大芝も引き続きホラーティウスの初期作品『エポーディ』とウェルギリウスの『アエネーイス』、またプラトーンの『ポリーテイアー(国家)』とキケローの哲学的散文、そして恋愛エレゲイア詩人プロペルティウスであった。大芝はその成果の一部を台湾大学における国際シンポジウムでの招待研究報告の形で公表する機会を得た。さらに、年度末には最終的成果として、所属大学の紀要に論文として公表することもできた。最後に、3年間の研究全体の総括を行い、次の課題に向けての方向性を確認した。
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