研究課題/領域番号 |
23520392
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
村田 京子 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (60229987)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交流 / フランス文学 / 絵画 / ジェンダー |
研究概要 |
23年4月に刊行した著書『女がペンを執る時』では、従来のフランス文学史、フランス思想史でほとんど取り上げられてこなかった19世紀フランスの女性作家(貴族、ブルジョワ、労働者階級と出自の違う3人の女性)を取り上げ、ジェンダーの視点から女性と文学、女性と社会の関係を掘り下げた。 12月の日韓シンポジウムにおける研究発表では、絵画が19世紀フランス文学の中で、どのように扱われているのかを、主にバルザックの作品を中心にジェンダーの視点から探った。『人間喜劇』の中で、ラファエロの聖母像に喩えられる女性はセクシャリティを伴わない純潔さで特徴づけられ、家庭空間に閉じ込められた女性(「見られる女」)の表象であった。それに対してジロデの絵の男性像(エンデュミオン)に喩えられる男性は「女性化された身体」を持ち、彼に欲望の眼差しを向ける女性の方が「見る主体」となり、ジェンダー規範に抵触する「危険な女性」として描かれていることを明らかにした。24年2月に女性学コロキウムで研究発表をし『女性学研究』に掲載した論文では、ジョルジュ・サンドの作品『ピクトルデュの城』を取り上げ、女主人公が優れた女性画家に成長していく過程を追い、男性画家とは違い、母権的な立場から「理想美」へのアプローチをしていることを明らかにした。また、19世紀当時の女性職業作家が直面した問題を分析した。3月のバルザック研究会での研究発表では、女性作家マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモールの小説『ある画家のアトリエ』をバルザックの小説と比較対照し、デボルド=ヴァルモールの描く女性画家像と、理想的な社会の雛型としてのアトリエがどのようなものかを検証した。 以上のように、バルザック、サンド、デボルド=ヴァルモールの作品と絵画の相関性、および女性画家像をジェンダーの視点から考察し、新しい知見を得ることができたことに本研究の意義が見いだせよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の1番目に掲げた「19世紀フランス・ロマン主義文学と絵画の相関性を小説構造や小説美学と密接に関連させて考察・分析する」に関しては、バルザック、ジョルジュ・サンド、マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモールの小説を取り上げて文学と絵画の相関性を分析し、絵画が小説構造に果たした象徴的な役割を明らかにした。 2番目の研究目的「文学テクストに現れる絵画を、特にポルトレを中心に、ジェンダーの視点から検証する」に関しては、バルザックの小説における女性のポルトレを取り上げ、ラファエロやジロデの絵画との関連性を当時の社会背景、ジェンダー観から探った。 3番目の研究目的「女性作家の描く画家像と男性作家の描く画家像との違い、および芸術論の違いを明らかにする」に関しては、サンドとバルザック、あるいはデボルド=ヴァルモールとバルザックを比較対照することで、男性作家の絵画小説には女性の職業作家がほとんど登場しないこと(女性は絵画の「モデル」または男性画家にインスピレーションをもたらす「ミューズ」の役割しか演じられない)、それに対して女性作家の場合、創造行為に携わる女性画家が登場することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
1.H24年3月31日に行った研究発表の原稿(「画家のアトリエ マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモールとバルザックの作品の比較研究」)をさらに精査し、注なども加えた形で論文にまとめる。2.23年度にジョルジュ・サンドの『ピクトルデュの城』を取り上げ、絵画が小説構造に果たした役割や、サンドの理想の女性画家がどのようなものなのかを探ったが、24年度も引き続き、サンドの作品『彼女と彼』(女性肖像画家と男性歴史画家が主人公。サンド自身とミュッセがモデルとされる小説)を取り上げ、そこに描かれた男性画家と女性画家の違いを分析する。また、同作品をミュッセが彼自身とサンドをモデルにして書いたとされる『世紀児の告白』とを比較研究することで、サンドの描く女性画家像の独自性、およびその芸術論を明らかにする。さらに、サンドの作品に登場する女性のポルトレと絵画との相関性を探る。3.サンドと同時代の女性動物画家で、しばしばサンドの『魔の沼』など「田園小説」と関連づけられて評価された、ローザ・ボヌールを取り上げる。ローザ・ボヌールはサンドと同様に、男装をし、「女性解放」をスローガンにしたサン=シモン主義の信奉者で、ジェンダーの視点から彼女の画家としての生き方および、その絵画論を検証する。4.テオフィル・ゴーチエやノディエなどロマン主義時代の男性作家の絵画小説を分析し、その特徴を明らかにする。5.上記の研究を進めるために、芸術関連、フランス文化・文学関連の図書や研究書など、さらに幅広く資料収集をはかる。そのためにも夏休みなどを利用してフランスに滞在し、フランス国立図書館など関連図書館等で資料収集をすると同時に、ルーヴル美術館、ドラクロワ美術館などを訪れ、絵画に直接触れる機会を持つ。また、国内外の学会、シンポジウムなどに参加して研究発表を行うとともに、研究者と意見の交換をする。
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次年度の研究費の使用計画 |
1.本研究の研究成果を社会に公開するために、23年度にホームページを新しく立ち上げる予定であったが、諸般の事情により、立ち上げが遅れたため、24年度にホームページ作成費用として使う。2.23年度中に海外発注したものの、23年3月末までに届かなかったフランス語文献の支払いに使う。
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