研究課題/領域番号 |
23520392
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
村田 京子 大阪府立大学, 人間社会学部, 教授 (60229987)
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キーワード | フランス文学 / 絵画 / 女性芸術家 / ジェンダー |
研究概要 |
H24年5月に刊行した日本ジョルジュ・サンド学会編『200年目のジョルジュ・サンド―解釈の最先端と受容史』(共著)では、第2部「交差する芸術」第4章「絵画に喩えられた女性たち」を担当した。サンドの作品には様々な絵画や画家の名前が見いだせるが、特に登場人物のポルトレ(人物描写)において、特定の絵画がしばしば援用されている。本章では、そうした「絵画に喩えられた女性」のポルトレ、とりわけラファエロやホルバインの聖母像を援用した人物描写を中心に、絵画に対するサンド独自の視点とそこから読み取れる女性像を検証した。 さらに、11月に日仏女性研究学会主催の「関西女性作家を読む会」で19世紀フランスの女性作家、マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモールの小説に関する研究発表を行い、小説に登場する女性画家がどのように描かれているのかを探り、作者にとっての理想の女性画家像を明らかにした。その発表原稿をもとに紀要論文にまとめた。12月には大阪府立大学女性学研究センター主催の「女性学コロキウム:美術、文学とジェンダー」において、19世紀フランスにおいて絶大な人気を誇った「男装の動物画家」ローザ・ボヌールに関する研究発表を行い、彼女の生涯と作品をジェンダーの視点から分析した。その発表原稿を大幅に加筆修正して論文にまとめ、『女性学研究』に掲載した。さらに、昨年度に開催した日韓シンポジウムでのバルザック作品に関する研究発表(「「見られる女」と「見る女」―ジェンダーの視点から見た19世紀フランス文学と絵画」)を論文にまとめ、25年3月刊行の報告書に掲載した。 以上のように、サンド、デボルト=ヴァルモール、バルザックの作品と絵画の相関性を分析するとともに、19世紀当時の女性画家が直面した社会的問題を浮き彫りにすることができた。また、研究成果を一般に公開するためにホームページを立ち上げ、情報を発信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的の1番目に挙げた「19世紀フランス・ロマン主義文学と絵画の相関性を、小説構造や小説美学と密接に関連させて考察・分析する」に関しては、バルザック、ジョルジュ・サンド・マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモールの小説を取り上げて文学と絵画の相関性を分析し、絵画が小説構造に果たした象徴的な役割を明らかにした。 2番目の研究目的「文学テクストに現れる絵画を、特にポルトレを中心に、ジェンダーの視点から検証する」に関しては、24年度は特にサンドの小説における女性のポルトレに焦点を当て、ラファエロ、コレッジョ、ホルバインの聖母像との関連でジェンダーの視点で探り、新しい知見を発見したと自負している。 3番目の研究目的「女性作家の描く画家像と男性作家の描く画家像との違い、および芸術論の違いを明らかにする」に関しては、デボルド=ヴァルモールの小説に登場する女性画家をロマン主義的な芸術家神話(天分を持った男性芸術家が神に代わって作品を創造する)と比較対照させることで、女性画家およびその芸術論の独自性を探った。また、ローザ・ボヌールの絵画(《ニヴェルネー地方の耕作》)とジョルジュ・サンドの田園小説(『魔の沼』)を関連づけ、両者が当時の男性批評家から「二人の天才兄弟」(「二人の天才姉妹」ではなく)と称賛された理由を明らかにすることで、19世紀当時の女性芸術家(画家、作家)を取り巻く社会的状況を考察した。
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今後の研究の推進方策 |
1.23年度の研究対象として、ジョルジュ・サンドの『ピクトルデュの城』における女性画家像を取り上げたが、それと関連させる形で同じくサンドの『彼女と彼』(女性肖像画家と男性歴史画家が主人公)を取り上げ、サンドの作品世界における理想の女性画家像を検証する。その研究成果を仏文論文にまとめ、25年6月に開催予定のサンドの国際シンポジウム(ベルギー、ルーヴァン大学)で発表する。 2.19世紀において美術批評家としても有名であったテオフィル・ゴーチエの小説における絵画と文学の相関性を探る。 3.19世紀文学に多く登場する娼婦と絵画との関連性を探る。 4.上記の研究を進めるために、芸術関連、フランス文化・文学関連の図書や研究論文など、さらに幅広く資料収集をはかる。そのためにも渡仏し、フランス国立図書館など関連図書館で資料収集をすると同時に、ルーヴル美術館、オルセー美術館など主要な美術館を訪れ、絵画に直接触れる機会を持つ。また、国内外の学会、シンポジウムなどに参加して研究発表を行うと同時に、関連の研究者と意見交換を図る。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究費が生じた理由は、24年度も資料収集のために渡仏の予定で旅費として相当額を残していたが、眼の手術のために渡仏が困難になったため。 幸い、手術が成功したので今年度にベルギーで開催される国際シンポジウムに参加する予定で、その旅費として使う。
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