1.平成26年度の研究成果:まず、ロマン主義文学の先駆者スタール夫人の『コリンヌ』を取り上げ、作中で言及されている絵画・彫像を手掛かりに物語を読み解いた。とりわけ、ナポレオンから国外追放の身にあったスタール夫人が、女主人公を通してナポレオン批判を密かに行っていることを絵画的表象を通じて明らかにした。さらに、自然主義作家ゾラの『ナナ』を取り上げ、ロマン主義的クルチザンヌと一線を画すゾラの娼婦像を見極めるために、ロマン主義文学からゾラの『ナナ』に至る娼婦像の変遷をそれぞれの女性像に関わる絵画的表象と結びつけながら考察した。 2.研究期間全体における研究成果:第一に、19世紀フランス・ロマン主義文学(バルザック、ジョルジュ・サンド、マルスリーヌ・デボルド=ヴァルモール、テオフィル・ゴーチエ、スタール夫人の小説)を取り上げ、文学と絵画の相関性を分析し、絵画が小説構造に果たした象徴的な意味を明らかにした。第二に、上記の作家の作品の登場人物のポルトレを抽出し、それぞれラファエロ、ジロデ、ルーベンス、ホルバイン、ドメニキーノなどの絵画的表象と関連づけ、19世紀当時の「女らしさ」「男らしさ」の概念を浮き彫りにしながら、ジェンダーの視点から検証した。第三に、女性作家(サンド、デボルド=ヴァルモール)と男性作家(バルザック、ミュッセなど)の小説における女性画家像を比較対照することで、男性の芸術家神話とは異なる女性画家像を分析した。さらに、男装の女性画家ローザ・ボヌールを取り上げ、サンドとの関わりを探ると同時に、当時の女性職業画家が遭遇した様々な社会的障害を明らかにした。 以上のような研究成果を公にするため、その一部を本(『ロマン主義文学と絵画―19世紀フランス「文学的画家」たちの挑戦』、新評論)にまとめ、平成27年3月に出版した。
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