平成25年度は最終年にあたるので、これまでの研究成果を集約することになった。平成24年度に開催したシンポジウム「マラルメ・シンポジウム2012/マラルメは現在……」で口頭発表した「マラルメの挫折、あるいは新たな出発」を含む論文集を編集し、『マラルメの現在』として水声社より刊行した。 また助成期間中に発表した論文と、新たに書き下ろしたものを含め、「同時代の言語思想を通して見たステファヌ・マラルメの詩学の形成」としてまとめた。 これらの論文を通じて、マラルメの詩学形成に関わる要素が、中世スコラ哲学的な言語観であり、またインド哲学や仏教といった東洋思想であるということを明らかにしている。それはマラルメが19世紀後半の産業社会とデカルト以来の合理主義に対して、それ以前の思想や19世紀フランスでは周縁的な思想として扱われていたものを利用して詩学を形成していったことを表している。しかしそれは単なる近代に対する反動や東洋趣味なのではなく、西洋の近代的思考に対する根源的な批判であり、その近代批判の返す刀で、中世以来のキリスト教的思考とも断絶を図ろうとするものであった。 こうしたマラルメの西洋・近代批判はマラルメの詩作品や詩論といったものよりもむしろ彼の周縁的な作品から顕著に読み取れることをもこの研究で指摘した。本研究では「言語に関するノート」と題された草稿群、教科書・学習参考書の類いである『古代の神々』『英単語』などからそうした批判を読み取り、これらがマラルメに根本的な思想の転換をもたらしたことを論証した。 反省すべき点はインド哲学・仏教に関する考察をもう少し掘り下げられれば、マラルメが近代知の批判として、あるいは近代社会の合わせ鏡として東洋を指向したことをさらに明確にすることができたのではないかと考えている。この点については今後の研究課題としたい。
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