研究課題/領域番号 |
23520397
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研究機関 | 大東文化大学 |
研究代表者 |
美留町 義雄 大東文化大学, 文学部, 准教授 (40317649)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 森鴎外 / ミュンヘン |
研究概要 |
森鴎外の『うたかたの記』を主要テキストとし、その中に描かれた都市ミュンヘンを歴史的に再検証する作業を遂行した。具体的には、鴎外が実見して作中に表した、バヴァリア像や凱旋門、ピナコテークや芸術アカデミーといった古典建築群に焦点を当てつつ、それらの建造にまつわる歴史・文化的経緯を調査した。 その結果、ルートヴィッヒ一世が19世紀前半に強力に推し進めたメセナ政策に調査の力点が置かれた。ドイツの政治・美術史の文献を精読し、彼がバイエルンの王都ミュンヘンを「イザール川のアテネ」にするために進めた諸事業について考察すると同時に、ギリシャ・ローマ的な相貌の背後に、ミュンヘンが強いゲルマン的性格を秘めて行くという相反する事実を明らかにした。 次に、文学作品から日記や雑記にいたる鴎外の諸テキストを分析し、彼が王都の相克する二つの文化的潮流をよく理解していた事実を浮き彫りにした。最終的に、ロマンチックな作風として知られる『うたかたの記』において、バヴァリア女神像のモチーフを取り上げ、その古典的な出自とは裏腹に像の愛国的な性格を抽出し、同時に、この小説が、愛国と抒情を併せ持つドイツ・ロマン派の正統の系譜に属することを解明した。 これらの成果は、論文「『うたかたの記』におけるロマン主義の実相 ―バヴァリア女神像の系譜をめぐって―」のかたちで、日本比較文学会の学会誌「比較文学」54号2012年3月(レフェリー制あり)に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでややもすればロマンチックな文脈で評価されていた『うたかたの記』研究に、ナショナリズムという新しい視座を導入することができた。また、その研究をまとめて投稿した結果、分野では最も権威のある学会誌に掲載が許可された。さらに、次年度(平成24年度)のミュンヘン留学が決定し、実地で検証する機会を得ることにより、研究のさらなる展望が開けた。
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今後の研究の推進方策 |
一年間、ミュンヘンに滞在し、当地における鴎外の足跡を詳細に再検証する。彼が実見した街並み、知り合った人々、滞在した住環境、購読した書物や雑誌、訪れた劇場や展覧会を、『独逸日記』や書簡などはもちろん、彼の友人や当時の市民達の文献をも対象に加えて調査する。そして、ミュンヘンにおける鴎外の一日一日のスケジュールまで明らかにし、彼の日常生活の実態に迫って行く。なお、この作業では、多岐にわたる文献を、スキャナーを利用してコンピューターに取り込み、それらを整理しながら本研究のデータ・ベースを作成し、分析の足がかりとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
ミュンヘン大学およびバイエルン州立図書館において、当時の資料の複写を行うため、携帯用の小型のスキャナーとプリンターが必要となる。また、十九世紀のミュンヘンの史的資料を相当数購入する。さらに、ドイツ語の理解のために、謝金を使ってネイティブ・スピーカーの助力を得ることも計画している。
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