本研究は、森鴎外のミュンヘン滞在をテーマとし、19世紀末の芸術都市ミュンヘンにおける生の実情が、鴎外とその文学に与えた影響を検証している。 2013年度は、前年度におけるミュンヘン留学の成果を論文にまとめる作業を行った。入手した、鴎外滞在時の美術論、都市論、民衆・生活史の文献を精読し、『独逸日記』および『うたかたの記』等の鴎外のテキストと比較・検証した。その結果、鴎外を圧倒した「古典芸術と美術学校」、彼が足繁く通った「カフェ・ミネルヴァ」、そして『うたかたの記』で重要な役割を果たす「シュタルンベルク湖」という三つのテーマに焦点を合わせ、「『うたかたの記』とドイツ美術界の動向について ―ミュンヘン画壇の消息より」という論考にまとめた。 この論文を学会誌『日本近代文学』に投稿したところ、「『うたかたの記』注釈として過去にない成果を含む」、「作家論的な面でも鴎外のミュンヘン体験、ならびに帰国後の美術活動に関わる新たな事実を報告している」と「高く評価」され、2014年5月に出版される同誌第90集に掲載されることが決定した。
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