研究課題/領域番号 |
23520398
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
渡邉 浩司 中央大学, 経済学部, 教授 (20278401)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 仏文学 / アーサー王物語 / 聖杯伝説 |
研究概要 |
平成23年度は、古フランス語散文「聖杯物語群」関連の文献収集を行った上で、先行研究の総括を試みた。一方で「聖杯物語群中」の2作品『メルラン続編』と『ランスロ本伝』中の挿話分析を行った。依拠した「聖杯物語群」のテクストは、ボン大学図書館526番写本を底本としたプレイヤッド版『聖杯の書』である。 まず文献収集については、8月中旬にパリのフランス国立図書館を訪ね、日本では入手が困難か不可能な文献の参照や入手に努めた。 次に先行研究の総括については、「聖杯物語群」の中核をなす「三部作」(『ランスロ本伝』、『聖杯の探索』、『アーサー王の死』)を対象とした古典的な著作の批判的な検討を行った(フェルディナン・ロットの『散文ランスロ』論、アレクサンドル・ミシャ『ランスロ=聖杯』論、アルベール・ポフィレの『聖杯の探索』論、ジャン・フラピエの『アーサー王の死』論など)。総括は「聖杯物語群」の写本伝承・成立年代・作者など項目別に行ったが、ジャン・フラピエ説がこれまで大方の賛同を得てきたことが確認された。「聖杯物語群」全体を収録する写本は数少ないが、最初期の写本の1つであるボン大学図書館526番写本(筆写は1286年)については、フィリップ・ヴァルテール氏(グルノーブル第3大学)から直接、貴重な情報をいただいた。 最後に「聖杯物語群」の物語分析については、神話学的な観点から『メルラン続編』(ボン大学図書館526番写本では『アーサー王の最初の武勲』)の中で魔術師メルランが雄鹿にする挿話に、英雄叙事詩の観点から『ランスロ本伝』の中で忠臣ファリアンが登場する挿話を分析し、論考を発表した。いずれの拙稿も、本邦の「アーサー王物語」研究では、これまで注目されることのなかった挿話を扱ったものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究実施計画では、文献収集と先行研究の総括に主眼があった。 文献収集は、フランス国立図書館での調査のおかげで、ほぼ予定通りに進んでいる。それでも、関連文献は書籍・雑誌論文を含めて多岐にわたるため、平成24年度も引き続き継続していく必要がある。 欧米で発表された膨大な先行研究の総括については、「聖杯物語群」の中核をなす「三部作」を対象とした研究について、大まかなアウトラインを示すことができた。平成23年度では、先行研究の中でも古典的な著作とされるロット、ミシャ、ポフィレ、フラピエに代表される、20世紀前半から後半にかけて出版された研究を重点的に参照した。この分野の世界的権威であるフィリップ・ヴァルテール教授とは定期的に連絡をとりあい、研究に必要な情報を得ることができた。「聖杯物語群」をめぐる先行研究総括の一部は、平成24年度中に中央大学人文科学研究所の紀要に掲載される予定である。平成24年度も先行研究の総括を継続し、20世紀後半から今世紀にかけての研究動向を追っていく。 平成23年度には一方で、次年度に取り組む予定だった「聖杯物語群」の1つ『メルラン続編』(ボン大学図書館526番写本では『アーサー王の最初の武勲』)の神話学的分析の一部を先行的に開始することができた。『メルラン続編』には、アーサー王の武勇を語る本流とは別に、副次的な小話が複数収められているが、そのうちの1つで、魔術師メルランが雄鹿に変身する件を含む「グリザンドールの話」を対象とした拙稿は、12月に刊行された『神話・象徴・図像I』に収録された。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度に行い、平成24年度も継続する先行研究の総括を踏まえ、古フランス語散文「聖杯物語群」の「サイクル」としての成立を分析するとともに、「聖杯物語群」の個々の物語の独創性を明らかにするための作業を開始する。 まず先行研究総括については、平成24年度には20世紀後半から今世紀にかけて刊行された著作を中心に参照し、新しい研究動向を探ることに努める。 具体的な物語分析については、平成23年度にすでに開始した『メルラン続編』(ボン大学図書館526番写本では『アーサー王の最初の武勲』)の挿話分析を継続して行う。『メルラン続編』は「聖杯物語群」の中で前半と後半をつなぐ部分にあたり、物語群の中で最後に創作された部分であるため、物語群の成立を考える上で重要である。若きアーサー王が一連の武勇を見せる叙事的な物語である『メルラン続編』には、超自然的な要素が色濃い複数の小話が挿入されて支流をなしている。これまで評者の関心を集めることのなかったこうした小話群を神話学的に分析することで、物語の着想源に豊かな口頭伝承が存在したことを明らかにしたい。平成23年度には先行的に「グリザンドールの話」の分析を試みたが、平成24年度には「ローザンヌの怪猫の話」を始めとした、『メルラン続編』が収録する他の小話の分析を行う予定である。 なお『メルラン続編』の神話学的分析が、平成24年度中に予定よりも早く終了した場合は、平成25年度に予定されている長大な『ランスロ本伝』分析の準備を開始する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
資料収集については、平成23年度に参照や入手ができなかった文献を求め、平成24年度も夏期休暇を利用してフランスに出張し、パリのフランス国会図書館を訪ねる。そのための旅費および滞在費に研究費の一部を充てる。 設備備品費については、書籍の購入が中心になる。購入予定の書籍類は大別して2種類あり、1つは古フランス語散文「聖杯物語群」を含む「アーサー王物語」関連のもので、もう1つは神話学的アプローチに必要な神話・伝承関連のものである。それぞれ20冊ずつ購入予定である。書籍の収集と購入は国内で行うほか、フランス・パリ滞在中には集中的に行う予定である。
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