研究課題/領域番号 |
23520400
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
酒井 健 法政大学, 文学部, 教授 (70205706)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | バタイユ / ドキュマン / 文化多元主義 / 民族誌学 / トロカデロ博物館 |
研究概要 |
本研究は、フランスの作家ジョルジュ・バタイユ(1897-1962)が1929年から31年まで編集局長となって刊行させたグラヴィア文化総合誌『ドキュマン』に定位して、この雑誌の文化多元主義的な思想を総合的に解明していく。ここでいう文化多元主義とは、多様な地域の文化、多様な時代の文化に問いかけて、近代西欧文化の閉鎖的な独善性を批判し、その刷新を図る姿勢のことである。20世紀前半、危機にあった近代西欧文化の病根をこの閉鎖性に見出し根源的刷新を迫ったバタイユ及び前衛的な同人たちの野心が検討されていく。本年度は、この雑誌が対象として掲げた「考古学」「美術」「民族誌学」の内とくに民族誌学の方面に注目し、同誌の先端性を探った。まず時代背景として、19世紀後半から始まるフランス民族誌学が1920年代に入り一段と新たな動きを呈するようになったことを示し、それが『ドキュマン』と共通基盤を形成していたことを明示した。具体的に言えば、パリ・トロカデロ民族誌学博物館の大修復とともに非西欧世界の多様な文化遺産が、西欧中心主義的な見方から解かれて、それ自体として根源的に(それぞれの風土、宗教、生活習慣を尊重するだけの文化相対主義を超えて、深い力を表出させる表現物として)展示されるようになっていく動きが、バタイユら『ドキュマン』同人と創刊前夜から共有されており、同誌の斬新で豊富なグラヴィアと同時代批判の論文に発展していく点を明らかにした。その成果は、法政大学紀要『言語と文化』発表の論文、および同大学で開催したシンポジウム「2012 バタイユ没後50年に向けてー雑誌『ドキュマン』の魅力」(江澤健一郎氏との連続講演会)、さらにその報告書(『言語と文化』別冊)として公表した。また2012年3月にフランスで開かれたバタイユ国際シンポジウムでは同誌の批判意識をそれ以後の彼の思想の進展と対比させて論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の目標であった時代背景について把握が順調に進み、論文やシンポジウムを通してその成果を公表できた。そのうえさらに、シンポジウムの大部の報告書を年度内にまとめて刊行できた点は予想以上の研究の進捗であった。
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今後の研究の推進方策 |
『ドキュマン』はバタイユの指導性のもとに中刊行された雑誌であるが、他の同人の前衛的な仕事も看過できない。今後はミシェル・レリスなどの同人の論文もより一層考慮にいれながら研究を進めたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度は民族誌学を中心にしたが、次年度は西欧美術の部門に定位して雑誌『ドキュマン』の前衛性を究明したい。この美術の範疇は古代から現代まで幅広く、また宗教や風俗とも密接に関係しているために、資料の収集、および実地踏査(例えば中世の教会)に研究費が必要であり、所定の金額(直接経費1100000円)をフルに用いて、研究にあたりたい。
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