研究課題/領域番号 |
23520401
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
田母神 顯二郎 明治大学, 文学部, 教授 (30318662)
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キーワード | アンリ・ミショー / ピエール・ジャネ / メーヌ・ド・ビラン / アンリ・ベルグソン / フランス精神医学 / ネオ・ジャクソニスム / マルセル・プルースト / 解離性障害 |
研究概要 |
本研究は、フランス近現代の思想・文学・精神医学に見られる<ネオ・ジャクソニスム>的傾向の変遷を探求することにより、フランスにおける新たな<知の系統図>を作成することを目標としている。平成25年度は、主としてメルロ=ポンティとサルトルにおける現象学的態度およびドゥルーズ理論の<ネオ・ジャクソニスム>的視点からの再考察という作業を行うことによって、この系統図の輪郭がほぼ明らかになったと考える。すなわち、精神医学界では、ピエール・ジャネにおいて、メーヌ・ド・ビランに発する思想伝統が、テオデュール・リボーを介して導入されたジャクソニスム的伝統と合流すると共に、新たな時間概念と結合することでネオ・ジャクソニスム的伝統が創始される。それが1920年代以降、現象学やベルグソニスムの影響を受けつつ、ウジェーヌ・ミンコウスキー、アンリ・エーらによって新たな発展を見ることは知られているが、フロイトやユングの思想の中にも、ジャネ理論の創造的発展が見出せる。一方、思想界では、ジャネ同様、ビランの影響を受けたベルクソンにおいてネオ・ジャクソニスム的主題が別様に展開されているが、それはメルロ=ポンティやサルトルによる新たな統合様式についての体系的理論の提出という反響を見たあと、ジル・ドゥルーズの諸著作において、オートマティスムと創造性に関する新たな思想の展開を見る。最後に、文学界にあっては、ボードレールを皮切りに、プルースト、ミショー、ベケットといった作家において、過去の形成物と人格の多重性、記憶の解体といったテーマにおいて、ネオ・ジャクソニスム的主題が深化されているのが観察される。猶、平成25年度における研究成果の公表として、上記の主要思想家および作家を扱った英文論文集Fragments&Wholesの発刊、および邦文論文集『ベルギーとは何か』(松籟社)へのミショー論の寄稿を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
<研究実績の概要>で述べた通り、ネオ・ジャクソニスム的傾向の変遷に着目したフランスにおける新たな<知の系統図>作成という目標は、その基礎作業を終え、最終的な研究成果の公表に向けた作業段階に入っている。この成果発表は、二冊の単著の刊行を通じて行う予定だが、第一の著作の構成案として、以下の項目を考えている。(1)ジャネ理論のネオ・ジャクソニスム的視点からの再評価。これにはメーヌ・ド・ビラン、リボーからジャネを経てミンコウスキー、エーらに引き継がれていくフランス精神医学の伝統の総括、およびフロイトやユングらの理論との比較も含まれる。(2)ネオ・ジャクソニスム的視点から見たジャネ理論とベルグソン思想の相関性と相違点の分析。(3)1920年代以降フランスに導入された現象学的方法とネオ・ジャクソニスムの関係を主としてミンコウスキー、エー、メルロ=ポンティ、サルトルらの理論を通して分析する。(4)最後に、ドゥルーズのベルグソン論である『シネマ』を中心に、ネオ・ジャクソニスムの核心的主題であるオートマティスムと創造性の問題が、どのように新たな変容をみたのかを検証する。現在、(1)についてはほぼ達成を見ているが、(2)~(4)については、後述の理由により、進行がややペースダウンしている。一方、第二の著作は文学研究にあてるつもりであるが、こちらも残された時間を考慮し、最もジャネ理論やネオ・ジャクソニスムとの結びつきが著しいアンリ・ミショーの作品を中心に論を書き進めている。なお、平成25年度までに、精神医学史研究の一環として、サルペトリエール、サン=タンヌ、シャラントン、ブルクヘルツリなどの医療施設を訪問し、新たな精神医療の実践も含め、精神医学についての知見を深めてきた。この成果も、将来、何らかの形で公表したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、これまでの研究において本研究の基礎作業の段階は概ね終了したと考えている。最終年度である26年度は、ひたすら最終的な研究成果の公表、つまり単著の刊行を目指した執筆作業を行っていきたいと考えている。また実際にも、25年度後半からこうした作業に取り組み始めていたのだが、昨年12月から本年の1月にかけて重大な家族の事情によってほとんどの時間が費やされたうえに、3月からは校務の負担がこれまで以上に増大したため、それまで極めて順調であった作業のペースダウンを余儀なくされている。とはいえ、先に示した計画案に従い、限られた時間を活用しながら、作業を進めている。万が一、予定している単著の刊行が本年度中に間に合わない場合、これに代わるものとして、各種の雑誌への論文投稿や最終報告書の作成などを考えている。また、その場合でも、現在の執筆作業は継続するつもりである。27年度は引き続き多忙な役職に就かなくてはならぬため、確実な予測は立てられないが、28年度には学内の特別研究制度(サバチカル)を利用できる見通しなので、遅くともその期間内には予定している単著の刊行を実現したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
「今後の研究の推進方策」欄に書いたように、昨年12月から1月にかけては家族の事情により、また3月以降は校務負担が増加したため、研究のペースダウンを強いられ、予算を年度内に完全に使い切ることができなかった。とはいえ、まだ未処理の物品費(書籍代)が相当程度溜まっており、それらを差し引けば、半分以下にはなるはずであり、残りもすぐに物品費(書籍代)として使用する予定である。 平成26年度においては、1)書籍代を中心とした物品費、2)フランス出張費(資料収集および各地の精神医療施設の視察)、3)報告書などの印刷・製本費などが主な支出項目となる予定である。1)については、ユング、フロイト、メルロ=ポンティ、サルトル、ラカン、ドゥルーズ、ガタリ、および神話学や人類学の文献、そして<精神暗部の探求>と関連する画家の美術書が中心になる予定である。2)については、1)で言及した著者に関係する資料(とくに雑誌論文)などの収集、およびロデスやラ・ボルドの精神医療施設を訪問する予定である。3)は、「現在までの達成度」欄などで説明した刊行計画の目処が立たなくなった場合、その代わりとなるような報告書を作成するための費用として考えている。
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