今年度は本研究における主要な思想家であるピエール・ジャネとベルクソンの精緻な読解を中心に作業を進め、以下のような成果が得られた。1)『記憶の進化と時間の概念』など、ジャネ後期の業績の分析をさらに進めることによって、ジャネの全体像をネオ・ジャクソニスム的視点から人格論、記憶論、行動論、時間論などのテーマに沿って統一的に把握する目処がついた。2)同様に、ジャネとベルクソンの関係という、これまで関心をもたれながら深い研究がなされてこなかった問題について、ネオ・ジャクソニスム的視点から一定の結論を引き出せる見込みが立った。3)とくにバシュラールの著作(『持続の弁証法』など)を通じ、中期以降顕著になっていくジャネとベルクソンの思想的差異を「時間論」における生気論的態度と構成主義的態度の差異として示せるようになった。4)また知的伝統としてのネオ・ジャクソニスム的傾向がベルクソンから実存主義に至る「意識の哲学」(金森修)の系譜と、バシュラール以降のフランス・エピステモロジーの系譜とに分かれていくことが理解され、ジャネは後者の一つの源流になっていることなどが新しく分かってきた。5)ドゥルーズの『差異と反復』や『シネマ』などの精読を通し、ドゥルーズがベルクソンの運動観や時間観を重視しながら、ジャネ的発想をも採り入れていること、とりわけ、ドゥルーズの機械観が、ジャネのオートマティスム論に通じるものであることが仮説されるようになった。6)一方、ジャネとベルクソンの行動主義的傾向をネオ・ジャクソニスム的視点から分析することで、メルロ=ポンティの身体論にも新たな光が当てられるようになった。今後、これらについて複数の論文を発表した後、ジャネとベルクソンを中心にこれまでのネオ・ジャクソニスム研究を一冊の著作にまとめ刊行する予定である。
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