研究課題/領域番号 |
23520402
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
菅谷 憲興 立教大学, 文学部, 教授 (50318680)
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研究分担者 |
和田 光昌 西南学院大学, 文学部, 教授 (30299523)
山崎 敦 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (70510791)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | フランス文学 / 国際研究者交流 / 身体 / 生成論 / 認識論 / 思想史 |
研究概要 |
本研究の初年度にあたる平成23年度は、当初の計画通り「身体性」という観点から各人がそれぞれ分析対象として設定したコーパス(『ブヴァールとペキュシェ』を中心とするフローベールのテキスト、および十九世紀の科学史・思想史にかかわる文献)を詳細に読み込む作業におもに専念した。 具体的には、菅谷は『ブヴァール』の医学に関するセクション(第3章前半)の下書き草稿(brouillons)約150枚を転写・分類し、同時代の医学の言説から小説というフィクションの言葉が立ち上がってくる生成プロセスの分析を行った。また、『書簡』の膨大な記述の中から病、特にヒステリーについての言及を整理し、フランス第二帝政、第三共和政という特定の歴史的状況におかれた作家の身体について考察を深めた。 和田は教育学の対象としての子供の地位が、『ブヴァール』第10章の成立過程において、プランから下書きに移行する際に社会化されていることに着目し、子供とその身体が社会に帰属するようになった社会史的転換の根拠を読書ノートの分析を通じて明らかにしようと試みた。また、19世紀後半の小説における身体表象の特異性を俯瞰する作業の一環として、ゾラの『テレーズ・ラカン』をコーパスとして、生理学的身体に抵抗する「もの」としての身体を浮き彫りにするエクリチュールを抽出した。 最後に山崎は、『ブヴァール』の神秘思想及び動物磁気に関するセクション(第8章前半)の読書ノート75枚を解読・転写した。また、考察の基礎となるコーパス作成という文献学的作業と並行して、フローベールの参照した神秘思想をめぐる27冊の文献、およびこれらの文献を下敷きにしたフィクションとしての『ブヴァール』という小説が、いかなる思想史的枠組に規定されているのかを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目は元々、「フローベールと身体」というテーマに関する基礎的な文献調査を行なう予定であったが、とりあえず現在までのところは順調に研究が進展していると言えよう。上記「研究実績の概要」に述べたように、3人の研究代表者・分担者が各人の課題に取り組み、それぞれ異なる領域(菅谷・医学史、和田、教育学史、山崎・哲学史および精神分析前史)との関連において小説における身体表象の特徴、歴史性を把握することにつとめた。日常的な連絡はおもにEメールを使用し、可能な限りお互いの研究成果、アイディアを伝え合いながら、共同研究としての一体性を維持することを心掛けた。また、3月には3人全員がフランス・リヨンの高等師範学校(ENS)で開かれた国際シンポジウム「『ブヴァールとペキュシェ』、資料調査・流布・エディション」に参加し、本研究の最初の成果を発表することができた。フランスだけでなく、世界各国の十九世紀文学および思想史の専門家たちと数日間にわたって活発な議論を交わすことができ、本研究の今後の進展にとっても非常に貴重な機会となった。なお、このシンポジウムでの発表は2012年度中に出版される予定であることを付言しておきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度も引き続きフローベール作品における身体表象にかかわる分析を学際的な視点から進めていきたい。3人の研究代表者・分担者が各人のコーパスを読み解く作業を継続していくのはもちろんのこと、これまでの調査で得られた成果を理論化する段階へと徐々に移っていくことになろう。菅谷はおもに『書簡』における身体への言及の分析を深めながら、第二帝政という時代のもつ現代的意味について考察を行なう予定である。和田は小説中における身体性への言及が、心や精神、言語など、その反対物とされるものといかに衝突あるいは同化することで可能になっているかについて生成論的にアプローチする。また、山崎はすでに転写した読書ノートに加えて、あらたに下書き草稿の解読を進めることを通じて、フローベールが催眠や幻覚といった心的かつ身体的現象をめぐる言説をいかに物語化したのかに迫りたい。最終的には3人の分析をまとめて、「身体的なもの」と「美学的なもの」との関わりについて一つの仮説を提示することを目的とする。前年度以上にお互いの連絡を密にする必要があり、定期的に打ち合わせの機会を持ちたいと考えている。 また、2012年度は12月にフランスからパリ第8大学名誉教授、現ジョンズホプキンス大学教授ジャック・ネーフ氏を招聘して、フローベールを中心にフィクション作品における身体の問題について学術的な催しを立教大学、および西南学院大学で行なう予定である。この機会に、国内の様々なフランス文学研究者にも呼び掛けて、できるだけ活発な議論、意見交換の場にできればと考えている。さらに、6月初旬に一度、3月に二度、フランスで『ブヴァールとペキュシェ』をめぐる国際シンポジウムが企画されており、本研究のメンバーもそのうち幾つかに招待されている。この機会を最大限に利用して、これまでの成果を国内外の研究者に向かって積極的に発信していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、平成23年度に使用しなかった繰越金に関しては、その大部分は2012年3月に行なわれたリヨンでの国際シンポジウムの際の旅費としてすでに計上してある。所属研究機関における予算処理の都合上、次年度の予算の中に組み込むこととなった。また、残りの繰越金および平成24年度に新たに申請する研究費に関しては、十九世紀フランス文学・思想史関係の文献の購入に役立てる他、おもに「今後の研究の推進方策」に記した諸々の国際シンポジウムや講演会に参加するための旅費として使用することを考えている。特にジャック・ネーフ教授を日本に招聘するための便宜を考慮して、研究費のかなりの部分を研究代表者・菅谷の所属機関である立教大学に配分した。ネーフ氏には研究分担者の一人である和田の所属機関である西南学院大学でもセミナーを行なってもらう予定だが、その際の移動費等もまとめて菅谷のところから支出する形を取りたい。
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