研究概要 |
平成24年度の研究実績は以下の I,II,III の3項目である。 I. ムージルの演劇批評のうちで最も重要な批評と見なされるもの3点について、翻訳し、かつムージルのこれらの演劇批評の内容を分析した成果を印刷に付し、公表した。その第一は「モスクワ芸術座」への批評、第二は「ロシア人カバレット」への批評、第三はゲオルク・ビュヒナー作「ダントンの死」への批評である。すなわちムージルのロシア人演劇賞賛は、そのままドイツ演劇の現状批判の裏返しであること、ロシア人演劇を理想の演劇とムージルが言うとき、それはそのままドイツ演劇に対する失望と不満の裏返しであること、そしてその批判の主たる対象はウィーン演劇界に向けられていたとの結論を得た。ビュヒナー作「ダントンの死」への批評からはムージルの文学観を確認することができた。すなわち科学者ならではの観察眼あるいは認識能力を持った作家としてのビュヒナーを、ムージルは高く評価している。 II. ムージルの演劇批評のうち、マリー・ルイーゼ=ロート版「ムージル、テアター」の批評番号で 8,9,12,17,24,25,29,31,54,59,64,74 の12本の批評については分析または翻訳作業を開始した。すなわちムージルにより批評の対象とされた作品は、1)シェークスピア演劇とマックス・ラインハルト演出による演劇作品批評:12,17.25,54,55, 59,64,74、2)自然主義作品への批評:24、3)民衆劇:8,9,29,31 に分類しうるものである。 III. ムージルが批評の対象とした演劇作品のすべてについて、所在場所の確認を行ない、このうち2作品を除いて、すべての作品の現物を見ることを行なった。 なお、上記I.で挙げた「ダントンの死」に関する論考は現在印刷中のためにページ等が不明である。そのために次ページの過年度業績欄には記載しない。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究活動によりムージルの演劇批評のうち、マリー・ルイーゼ=ロート版「ムージル、テアター」の批評番号で 8,9,12,17,24,25,29,31,54,55,59,64,74 の計13本の批評については分析または翻訳作業を開始した。その内訳はすなわち、1)シェークスピア演劇とマックス・ラインハルト演出による作品への批評12,17,25,54,55,59,64, 74、の計8本の批評、2)自然主義作品への批評:24、の批評1本、3)民衆劇:8,9, 29,31 の計4本の批評に分類しうるものである。 以上のムージルの批評については、翻訳と分析作業を今年度中に行なう。量的にはムージルの演劇批評の3割強である。しかしながら、重要度あるいは困難性も加味すると5割以上はカバーしていると考えている。今年度にムージルの演劇批評の7割程度の翻訳と分析を行ない、来年度平成26年度(研究計画の最終年)には、当初の計画をすべて遂行するべく研究活動を行なう。 また特に今年度は、ムージルが批評の対象とした演劇作品のすべてについて、現物を見ることを行ない、同時に読了する計画である。
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