研究課題/領域番号 |
23520407
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研究機関 | 椙山女学園大学 |
研究代表者 |
長谷川 淳基 椙山女学園大学, 人間関係学部, 教授 (40198718)
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キーワード | ローベルト・ムージル / アルフレート・ケル / ドイツ文学 / オーストリア文学 / 演劇批評 / ウィーン演劇 / カール・コリーノ / ウィーンとベルリン |
研究概要 |
実績の概要は以下の4点である。 I.ムージルの演劇批評のうち、①マックス・ラインハルト演出の劇への批評3本「ラインハルトのウィーン進軍」、「ラインハルト―ウィーン客演」、「ウィーンのラインハルト新劇場」について、日本語への翻訳と内容分析を行い、論文として公表した。また、②シェークスピア劇へのムージルの批評について、同じく日本語への翻訳と内容分析に取り組み、論文にまとめるための作業を行った。 II.ムージルの演劇批評82本が、批評の対象とした演劇作品については概ね資料の収集を終えることができた。それらの中には、オリジナルのタイプ原稿のもの2作、全ドイツならびに全オーストリアで唯一所蔵が確認できたコーブルク州立図書館での『王様のバレリーナ』を含んでいる。収集したそれらの作品のうち、およそ65%の作品については読了し、その内容を知ることができた 。そしてこの内容理解に基づいて、ムージルの演劇批評を読み進めた。 III.以上IとIIの結果、ムージルの演劇批評における主張について全体の輪郭を理解することができた。その輪郭とは①ムージルは劇評家として立った1920年代初頭の時期は、ウィーンないしは新生オーストリアのイデオロギーに批判的観念を抱いていること、②これと対照的に、ベルリン並びにロシア人演劇その他ユダヤ人演劇に強い共感を抱いている、ということである。この①については、ムージルの代表作『特性のない男』においてムージルがウィーンに対して示している共感ないしは愛着との関連を分析・考察することがムージル文学理解の根幹に触れる問題であるとの認識を得ることができた。 IV.その他の成果として、ムージルの演劇批評についての基本書として知られるマリー‐ルイーゼ・ロート氏の『ローベルト・ムージル‐テアーター』には、ムージルの批評の初出データの記載に関してずさんな記述が少なからず存在することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度の活動については、①平成23年度ならびに平成24年度の研究活動推進について生じていた遅れを回復することを目指しつつ、本来の計画通りに②平成25年度の研究活動を推進することを企図して研究活動に取り組んだ。 平成23年度(課題研究1年目)ならびに平成24年度(課題研究2年目)の遅れは、勤務先大学で図らずも役職(国際交流センター長)に就くことになったことにより生じたものであった。平成25年度はこの職の再任を辞退し、科学研究費・課題研究の推進について生じていた遅れを回復することに努めた。 その結果、これまでの遅れを100%回復するまでには至らなかったものの、遅れていた分についてその5割程度を回復し、これまでの遅れていた状況をかなりの程度改善できた。
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今後の研究の推進方策 |
作品の収集は90%を達成した。資料集は研究推進の基礎の部分となる。その点の不安をおおむね払拭することができたので、今後の研究活動は順調に推移するとの見通しを抱いている。 作品収集について残しているもの、すなわち未見のものはフランクフルトのドイツ図書館に2点の資料が蔵されているとの情報をベルリン国立図書館から得ている。またベルリン国立図書館の遺稿資料に当たること、ウィーン国立図書館の演劇文書館の蔵書資料をより詳細に当たることが、資料収集の完遂のために有効であると判断している。また、引き続き両図書館での研究情報の提供の支援を受ける。 ムージルの演劇批評における彼の全体的な思想傾向については、ウィーンへの彼の批判的姿勢を理解することができた。しかしフランス演劇への彼の批評における考えについては、残された研究時間の中で優先的に分析・考察しなけらばならないポイントと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
ベルリン国立図書館ならびにウィーン国立図書館で資料発見のための種々のアドヴァイスを受け、これにより必要な資料の90%は収集ないし読了を果たすことができた。しかし、ムージルの演劇批評の対象となった演劇作品に関する資料収集について、なお数点の資料の収集を果たすことができないでいる。 その詳細は以下のとおりである。①Hedwig Rossi と Dario Niccodemi の作品はフランクフルトのドイツ図書館に所蔵されている、との情報を得ている。② Walter Eidlitzの作品はベルリン国立図書館の Eidlitz 遺稿資料中に存在する可能性がある、との情報を得ている。③ウィーン国立図書館演劇博物館図書室には、電子カタログ化されていないカードカタログがあり、これには演劇作家の手書き原稿ないしタイプ原稿の情報が記載されている。このカタログに当たって資料発見の作業を行う。 フランクフルト・ドイツ国立図書館、ベルリン国立図書館、ウィーン国立図書館演劇博物館図書室訪問旅費として使用する。 また、資料のコピー代費用、マイクロフィルム代費用として使用する。
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