研究概要 |
M. A. Rose, Parody: ancient, modern, and post-modern, Cambridge, 1993およびD. Sangsue, La Relation parodique, Jose Corti, 2007を導きの糸にしながら、古代から現代までのパロディー作品およびに理論の変遷をふりかえった。その際には、これまで取り組みが不足していたセルバンテスの『ドン・キホーテ』、スターンの『トリストラム・シャンディ』、ラブレーの『ガルガンチュアとパンタグリュエル』など、パロディーを論じる際によく取り上げられる作品をまとめて通読することにより、諸理論の具体的理解に努めた。これにより、『狐物語』におけるテクストのもじりを論じる際には、戯画化(travesty)とバーレスク(burlesque)というパロディーに隣接する手法が重要であることが明らかになった。今後論を執筆する際には、計画通り、L. Hatcheonの提示する広義のパロディーに拠りつつも、誤解を避けるために、これらの用語を併記することにしたい。著述としては、中世の嘆きのディスクールの基本形を提供する哀悼歌のテクストを検討して訳出することで、パロディー作品によるこれらのテクストのもじりの様態を知るための助けにするため、「ソルデル、ベルトラン・ダラマノン、ペイレ・ブレモン・リカス・ノヴァスによる哀悼歌(planh)三篇(翻訳)」を発表した。『狐物語』を初めとする中世フランス文学のテクストの読解の精度をあげ、また、研究の能率を高めるためにF. E. Godefroyの古仏語辞典のデータベースを導入した。当初はCD-ROMを購入する予定だったが、版元が変わってオンラインデータベースのみとなったために、予算が30万ほど超過し、フランスへの文献調査に出かけることはかなわなかった。
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