研究概要 |
L. ハチョン、M.ローズらのパロディー論の精読をしつつ、R. Bellon, Diversite et unite dans le Roman de Renart(リヨン第二大学に出された国家博士論文,1992年)や,国際動物叙事詩学会が発行している雑誌Reinardusで論じられている『狐物語』におけるパロディー、およびこれに近接するものに関する論文を参考にしながら、ジャンルのパロディーに関する考察を、昨年に引き続き行った。 この際には、2008年に刊行された『カイエ・ド・ルシェルシュ・メディエヴァル(中世研究誌)』15号の「中世文学におけるパロディー的なものの誘惑」特集で取り上げられている作品のうち、『パレルモのギヨーム』(Guillaume de Palerne)、『オランジュ陥落』(La Prise d'Orange)を精読しながら、これらの作品において、ジャンルのパロディーがどのように行われているかについて検討した。特に、『狐物語』の初期枝篇が成立し終えた時期に制作されたと考えられている『パレルモのギヨーム』は、『狐物語』と同様に、武勲詩、宮廷風騎士道物語、聖人伝、叙情詩などのジャンルに特有の表現を自らの作品に取り入れているが、それらの表現の欠陥を指摘したり、表現を借りてきたジャンルの作品を茶化すという皮肉な意図よりはむしろ、これらの表現の不自然なまでの繰り返しや、表現の唐突な位相の変化から生まれるユーモアを楽しむという遊戯的な意思が認められる。『狐物語』からの借用が明らかな箇所もあるため、12世紀末から13世紀中葉の北フランスの物語におけるジャンルのパロディー論をするにあたっては、これら二つの作品を同時にとりあげて、比較検討ことに意義があることが分かった。
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