研究概要 |
L・ハッチョン、G・イットの論を参考に組み立ててきたパロディー論に、G・ジュネットの『パランプセスト』をつきあわせることで、中世文学における「ジャンルのパロディー」の論じ方を検討した。ジュネットのいう「ビュルレスクな戯作」(先行テクストに登場する高貴な人物に不似合いな台詞と描写を与える)と「英雄滑稽詩風のパスティッシュ」(先行テクストにおける上品な台詞・描写を、不似合いな人物に行わせる)が重要だが、これらにおいて、先行テクストはジュネットの言うように常に風刺の対象になっているのかということが問題になった。 「ジャンルのパロディー」の具体例として、13世紀に成立した物語『パレルモのギヨーム』の作品分析を行った。この作品には、Ch・フェルランパン・アシェが、聖人伝、武勲詩、宮廷風騎士道物語といったジャンルに特有な表現のパロディーを指摘している。また、本課題の対象である『狐物語』の影響についても述べられている。 次の三点を検討した。1.『狐物語』の影響について、先行研究で挙げられている根拠は希薄にみえる。本当に影響関係があるのか。2.『パレルモのギヨーム』においてパロディーとされている個所では、『狐物語』におけるほどには先行テクストへの批評的距離が明瞭ではない。これは、先行作品における戦いや恋愛感情の描写の場違いな模倣なのか、あるいは、作者は故意にユーモアをひきだそうとしているのか。3.Ch・フェルランパン・アシェによる「ジャンルのパロディー」の定義の妥当性。 5月に国際中世叙事詩学会日本支部の研究発表会において以上の1,2の問題について発表した後、夏期休暇中にパリ国立図書館にて、1についての文献学的調査を行い、3について同じ研究者の過去の著作を集中的に調査した。以上の研究の全体を2月に紀要論文「『狐物語』と『パレルモのギヨーム』-ジャンルのパロディーについての一考察」として発表した。
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