1 国立国会図書館等で資料調査および資料収集を行った。とくに1960年代の学校図書館関係雑誌を対象に、文学全集および翻訳に関しての検証作業を進めた。 2 2014年8月に韓国・昌原で開催された第12回アジア児童文学大会で研究発表を行った。従来の研究成果を基盤に、80年代以降の日本の現実を描いた児童文学作品群の特徴について、翻訳作品群が参照軸たりえたかを念頭に置きつつ論じたものである。その結果、70年代末の「タブーの崩壊」以降も欧米圏の作品と対比しうる傾向がみられる一方、20世紀末頃から翻訳作品群が参照軸としての機能を失いつつあることを指摘した。 3 2015年3月に、所属する学部の紀要に、『学校図書館』の1965年から1970年までの号を通覧する中での知見をまとめた論を発表した。この時期、強く「完訳主義」を主張し、絶対的な児童文学評価の基準を信奉する児童文学者がいる一方で、むしろ柔軟な「翻訳」に対する姿勢を見せる海外児童文学の専門家の存在も明確になった。また、そもそもの議論の発端が学校教師という媒介者による必読図書選定にあったこと、文学全集隆盛の刊行状況があったこと、当時の刊行企画における海外受賞作乃至本邦初訳が必ずしも専門家からは評価されなかったことなども確認した。媒介者側の資料におけるこのような論議の経過自体、この時期における「教養」的な「叢書」意識の残存とみなせるだろう。 4 4年間の研究を通して、1950年代と60年代以降での少年少女向け翻訳叢書における諸状況が大きく異なる点が明確となった。「世界」の捉え方の差異や「翻訳」のされ方そのものの問題がある一方、「読書」に対する「教養」としての期待は継続している。今後は、時代を下るテクストを対象にする、「日本」「古典」の作品を含む叢書を対象にする、さらに創作と翻訳の関係に目を向けるといった方向での追究を進めていきたい。
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