研究課題/領域番号 |
23520420
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
星名 宏修 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (00284943)
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キーワード | 海外進出 / 占領 / 皇民化政策 / 台湾 / 中国語文学 |
研究概要 |
1937年以後の台湾では、いわゆる「皇民化政策」によって中国語が抑圧され、「国語」(日本語)が文学の創作言語として中心的な位置を占めるようになる。しかし「抑圧」されたはずの中国語によって大東亜戦争を翼賛した雑誌『南方』の存在は、これまでの戦時期台湾文学に対する認識を転換させるものである。 本研究課題は『南方』雑誌を、当時の文壇の主流であった「国語」文芸誌の動向も視野に入れつつ分析することを目的としている。『南方』には、上海など日本が占領した中国諸都市に関する記述が頻繁に登場する。平成24年度においては、戦時期の台湾人女性の「海外進出」に焦点を当て研究を行った。具体的には『南方』に掲載された同時代の中国情報を参照しつつ、海南島や厦門など日本占領下の中国に自らの進路を見いだそうとする若い台湾人女性をテーマとした河野慶彦の「湯わかし」について調査を進めた。同時に「戦後」初期、日本の占領から解放された北京において、台湾人によって執筆された中国語の創作「一個少女的死」(雑誌『新台湾』所収)に描かれている台湾人女性像-日本によって強制的に動員され、海南島で風土病のために若くして死んでしまう-と対比させることによって、戦中と戦後の断絶がより鮮明になるよう考察した。 この研究テーマは、平成24年11月11日に、神戸大学で開催された国際シンポジウム「戦争と女性 漂泊する叙事-1940年代中華圏における文化接触史」において、「看護助手、海を渡る-河野慶彦「湯わかし」を読む」というタイトルで報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の中心的な課題となる『南方』雑誌の分析に取り組みはじめた。すでに台湾における現時点までの先行研究は基本的に収集を終え、比較的長い学位論文も含め読了している。「研究実績の概要」で示した報告は、これから論文化に着手するが、戦後初期の中国語雑誌にも分析対象を広げたことによって、『南方』所収テクストを考察するうえで新しい切り口を見いだせた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究テーマの最終年度となる平成25年度は、雑誌『南方』において重要な執筆者であった呉漫沙の作品分析に重点を置き研究総括を行う。作品に描かれた戦時期の中国を分析するだけでなく、雑誌『南方』そのものが中国や東南アジアへ流通していく過程も追うことで、占領地における文学の伝播について考察する。 同時に占領地で刊行された雑誌として『華文大阪毎日』についても初歩的な分析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
最終年度となる平成25年度においても、これまでと同様台湾大学図書館や台湾の国家図書館などでの資料収集は継続する。また『華文大阪毎日』など、占領地で刊行された雑誌の収集も行う。 また11月に北京で開催予定のシンポジウムに参加し、研究成果を報告する。そのための旅費なども計上する。 なお平成24年度の研究費を効率的に使用した結果、若干の端数が生じたが、平成25年度の研究費と合わせて使用する。
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