研究課題/領域番号 |
23520423
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
猪俣 賢司 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (40223292)
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キーワード | 比較文学 / ゴジラ / モスラ / 日本映画 / 戦後日本 / 東京 / 南洋 / 核兵器 |
研究概要 |
『ゴジラ』(1954年)に始まる「ゴジラ映画史50年」とも言うべき“もう一つの文化史”には,成瀬巳喜男,小津安二郎などの1950年代の戦後日本映画とも分かち難く連動し,「帝国」日本と「敗戦国」日本の連続した昭和史が表象されている。ゴジラは,「東京」と「南洋」を往復する存在であり,本研究は,(1)ゴジラ映画が一貫して描き続けてきた帝都東京の歴史的・地理的特質という観点,及び,(2)『モスラ』(1961年)にもその痕跡が残されている戦前・戦後の日本と深く係わった南洋史・南洋史観(南洋憧憬)という二つの観点を交差させ,これまで学問的俎上に載せられることのなかった50年に亙るゴジラ映画の描いてきた日本の戦後比較文化史を研究するものである。 敗戦国から立ち直ろうと1950年代に再軍備化されるなど,「ゴジラ映画史」から抽出される戦後の歴史表象(航空機・船舶・鉄道・軍事・交通・都市・海洋など)を研究することを主眼とし,大東亜戦争を経験した「帝国の残映」─東京と南洋の「往還」,即ち,戦前と戦後の「連続性」─を浮き彫りにすることによって,昭和史の表象空間─「郷愁と鎮魂の空間」─を明らかにする。 その一環として,当該年度は,総武緩行線松住町架道橋,昌平橋,両国橋,総武緩行線隅田川橋梁など,総武緩行線高架橋(御茶ノ水・秋葉原・浅草橋・両国間)とその周辺の景観・風景の現地調査などを行ない,『ゴジラ』や小津,成瀬の『稲妻』などの映画と,東京の鉄道線の戦前・戦後史との関係を,昨年度に引き続き考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
一昨年度以降の実施状況に於いて,2011年3月の原子力発電所の事故に鑑み,核兵器の戦後史を射程に入れて,本研究内容の方向性の再検討を試みていたため,遅れている状況が現在でも続いている。 また,研究期間の前半に実施する予定であった銀幕の東京と現実の東京との比較照合研究を,昨年度に引き続き本年度に於いても実施したが,当初の計画より時間が掛かっており,進捗状況は,遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
ゴジラ映画史,及び,戦前の国策映画,戦後の1950~1960年代の日本映画を題材とし,そこに描かれた航空機,船舶,鉄道,都市及びその建造物,また,南洋の島々などを特定して分析することにより,(1)昭和の交通史・軍事史とその映画表象との関係,及び,(2)戦前の委任統治領南洋群島と帝都東京の歴史的・地理的関係と戦後に於けるその連続性/非連続性を明らかにする。それらの事実と照合しながら,銀幕の表象空間に再現された「場所」と「移動経路/手段」の特性を測り,描かれた「モノ」(物質文化),及び,地図上の地理的「位置」とその「交通」に着目して進める。 (1)映画の中の東京と現実の東京の比較照合─ゴジラ映画が描き続けた主題でもある「東京」の地理的・歴史的背景を精査し,街並み,鉄道高架線,橋梁,港湾などの変遷との相関関係を調べ,文化史的・都市論的意味を明らかにする。 (2)ゴジラ映画の描く東京と文学に表現された東京─映像・文学・都市の交差の中で,東京湾から南洋へと拡がる「東京」の比較文化史を考え,戦後日本に於ける「郷愁空間」という観点から東京論を構想する。 (3)「南洋憧憬」の研究─「嘗ての日本の一部」であったという記憶すら失われている「南洋」について,戦前と戦後の映画などを比較することにより,「南洋憧憬」の文化史を明らかにする。帝都東京との関係や,核兵器の戦後史をも視野に入れながら,戦前・戦後の「南洋」とその交通経路を吟味する。本事項については,困難が予想されるため,当初計画していた方法論の見直しを行なう。 (4)東京と南洋を往復する郷愁の「帝国」─「東京」と「南洋」を結んでいる文化史を明らかにして,昭和史に於ける「帝国」の連続性─「東京」と「南洋」の郷愁空間の往還─という観点から,大東亜戦争や原水爆の記憶が往復する戦後文化史として,「ゴジラ映画史50年」の比較文化史を学術的に位置付ける。
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次年度の研究費の使用計画 |
前項「現在までの達成度」で遅れている理由にも記したように,研究期間の前半に実施する予定であった銀幕の東京と現実の東京との比較照合研究を,昨年度に引き続き本年度に於いても実施したが,当初の計画より相当の時間が掛かっている。 そのため,昨年度の「今後の研究の推進方策」で示した(3)「南洋憧憬」の調査研究が遅れており,それに係わるものとして計画していた予算に余りが生じた。 当該年度では,東京の鉄道史・交通史や建造物の変遷とゴジラ映画史との関係を調査したが,次年度以降は,それを継続しつつ,戦後日本の「郷愁空間」としての東京論との関係を考察し,「東京」と「南洋」の郷愁空間の往還(往復)という観点を吟味する。 「南洋憧憬」の研究については,困難が予想されるため,その方法論を再検討する。映像作品・映像資料(主にDVD),東京や昭和史(軍事・交通を含む)に関連する資料・著作品などの購入,及び,東京の現地での実地調査,東京都立中央図書館等での資料調査などは,引き続き行なう計画である。
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