『ゴジラ』(1954年)に始まる「ゴジラ映画史50年」とも言うべき“もう一つの文化史”には,成瀬巳喜男,小津安二郎などの1950年代の戦後日本映画とも分かち難く連動し,戦前の「帝国」日本と戦後の「敗戦国」日本の連続した昭和史が表象されている。ゴジラは,「東京」と「南洋」を往復する存在であり,本研究では,(1)ゴジラ映画が一貫して描き続けてきた帝都東京の歴史的・地理的特質という観点,及び,(2)『モスラ』(1961年)にもその痕跡が残されている戦前・戦後の日本と深く係わった「南洋憧憬」(南洋史・南洋史観)という二つの観点を交差させ,これまで学問的俎上に載せられることのなかった50年に亙るゴジラ映画の描いてきた日本の戦後比較文化史を明らかにした。 敗戦国から立ち直ろうとした1950年代の再軍備化や戦後復興期・高度経済成長期の首都東京など,「ゴジラ映画史」から抽出される戦後の歴史表象・地理表象(航空機・船舶・鉄道・軍事・交通・都市・海洋など)を研究することを主眼とし,大東亜戦争を経験した「帝国の残映」─東京と南洋の「往還」,即ち,戦前と戦後の「連続性」─をも浮き彫りにすることによって,昭和史の表象空間─「郷愁と鎮魂の空間」─としての「ゴジラ映画史」を研究した。 最終年度は,書籍の刊行を目指して,これまで行なってきた研究をまとめる作業に着手し,全体の約半分以上まで進めることができた。 また,本科研費主催で国際研究会「ゴジラと戦後日本の原子核エネルギー」(平成27年5月22日,新潟大学)を開催し,シュテフィ・リヒター(ライプツィヒ大学),岸田隆(理化学研究所),アンニャ・ホップ(新潟大学),石田美紀(新潟大学),及び,猪俣の発表・討議を通してワークショップを行なった。猪俣は,「発光する背びれ─水爆か,生命か─」と題して討議した。
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