研究課題/領域番号 |
23520426
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
横地 優子 京都大学, 文学研究科, 准教授 (30230650)
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キーワード | サンスクリット文献学 / ヒンドゥー教 / スカンダプラーナ / シヴァ教 / インド中世 / 国際研究者交流(オランダ) / 交際研究者交流(インド) |
研究概要 |
1. 国際共同プロジェクトとして行われている『スカンダプラーナ』の校訂研究のうち、単著である第3巻については最終作業を終え、現在タイプセッティング中である。共著となる第2B巻については、担当部部分の校訂をすべて終了し、8月に2週間、3月に1週間Groningen大学にて行われたプロジェクトのセッションにおいて他のメンバーの担当部分とともに集中的に討議し改訂版を作成した。また謝金を用いて、12世紀以降に著された同名の『スカンダプラーナ』の中で上記の原作ともっとも関係が深いと思われるAvantya巻の電子テキスト作成に取りかかった。 2. 北ベンガルのKotivarsaにおける3世紀から12世紀におけるシヴァ教の到来と発達に関して、前科研費研究課題において行った同地の女神信仰研究の成果と合わせて、6月にGroningen大学で上記プロジェクトに関連して開催された国際会議「Epigraphical Evidence for the Formation and Rise of Early Shaivism」において発表し、その成果をIndo-Iranian Journalに投稿した(掲載決定済)。 3. 6月にカシュミール(インド)のSrinagarにて中世の寺院遺跡・写本の調査を行ったが、現地のやむをえない状況のため、大学図書館が閉鎖し写本の収集にまでは至らなかった。 4. パーシュパタ・ヨーガ儀軌については、ヨーガによる自死(utkranti)を扱う章の分析を行い、初期のマントラ道文献との類似点と相違点を解明した。 5. 1月にカンボジアのアンコールで開催された国際集中サンスクリット合宿に参加し、アンコール遺跡中のシヴァ教関係のサンスクリット碑刻文・遺跡を調査し、Goodall博士等のフランス極東学院の専門家とともにいくつかの碑刻文を講読する機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 本研究課題の中核である『スカンダプラーナ』校訂研究については、当初の計画以上に進展し、26年度に完了する計画であった第2B巻について25年度中に完成、出版できる見込みがついたのは最大の成果である。しかしこちらの校訂研究に時間をとられたために、すでに研究を終え24年度中にその結果を論文にまとめ刊行する予定であった同文献の構成分析については、まだ論文にまとめきれていない。またカシュミールのシヴァ教詩『Kapphinabhyudaya』についても、そのもとで作者が活躍した王が建立したシヴァ寺院遺跡などをSrinagarで調査できたのは収穫であるが、予定していた写本の校合はあまり勧めることができなかった。 2. 一方、当初の計画外ではあるが、本研究課題にとって非常に重要であるシヴァ教碑刻文の研究については、パーラ期のKotivarsa碑刻文に関する研究を行いこれまでの研究成果と合わせて国際会議で発表、インド学分野の代表的な学術誌であるIndo-Iranian Journalへの掲載が決定した。また、23年度のジャワでの東南アジアのサンスクリット碑刻文の調査・講読に続いて、24年度はカンボジアのアンコール遺跡にてクメール期のサンスクリット碑刻文の調査・講読を行ったこと、Griffiths博士とベトナムのチャンパ朝のサンスクリット碑刻文に関する研究交流を継続していることなどから、中世の東南アジアへのシヴァ教の拡大に関して一次資料に基づく知見を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
1. 『スカンダプラーナ』の校訂研究については、24年度まででほぼ全体の校訂が完成し、25年度は新たに入手した写本のカラー写真やBodlean図書館(オックスフォード)にある現写本などを用いて、出版に向けての校訂テキストの最終チェックを行うとともに、国際共同プロジェクトの核となっているBakker教授、Bisschop教授、本研究者の3人で序章の執筆を行う。25年度中には第2B巻として出版する。その後はプロジェクト主幹であるBakker教授が引退するため、Bisschop教授とともに第4巻の校訂研究にむけて新たなチームとプログラムの構築を行う。 2. シヴァ教プラーナ文献の構成分析については、すでに研究を終えている『スカンダプラーナ』の成果を25年度中には論文にまとめるとともに、25・26年度はリンガ、マツィヤ、ヴァーマナ等のプラーナ文献の構成分析に力を注ぐ。 3. 『Kapphinabhyudaya』研究については、25年度はシヴァ教要素を抽出し、インド学仏教学会にて発表する予定である。また写本の校合を進め、文献学的視点から現校訂テキストの問題点に関して論文にまとめる。テキストの再校訂、英訳、解析については同僚であり、カシュミールのシヴァ教の専門家であるVasudeva教授と共同研究を行うことが決まり、まずもっとも難解な章の一つである第6章に取り組む。 4. パーシュパタ・ヨーガ儀軌については、24年度の研究の結果、テキストに問題が多く、特に後半部についてはその源をウパニシャッド等のヴェーダ文献にさかのぼって調査する必要があり、その解明は容易でなないことが判明した。ただし前半部の主題である古典サーンキヤ・ヨーガとの関係についてはヨーガの専門家である張本博士の協力を得てほぼ見通しができているので、本課題の期間中には成果を張本氏との共著論文にまとめる。
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次年度の研究費の使用計画 |
『スカンダプラーナ』第3巻の出版費の一部を24年度に分担する予定であったが、共同出版となる予定である第2B巻の校訂に時間をとられたために最終稿に至る作業が遅れ、24年度中に出版を間に合わせることができなかったために、その費用を25年度に繰り越すことになった。現在すでにタイプセッティング中で5月には印刷に回る予定であり、25年度に出版印刷費として使用することになる。それ以外では、当初計画では26年度に予定していた第2B巻の完成が25年度になるため、Bodlean図書館での写本の最終チェックが必要となるため、25年度8月に2週間ほどオックスフォードに滞在する計画である。25年度は第2B巻の完成が最優先事項となるため、状況によっては1月に計画していた南インドのシヴァ教寺院遺跡・図像調査は26年度に行うことになるかもしれないが、計画全体に支障は生じない。
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