研究課題/領域番号 |
23520427
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
鈴木 暁世 大阪大学, 文学研究科, 招へい研究員 (60432530)
|
研究分担者 |
橋本 順光 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (80334613)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 国際情報交流 / 国際研究者交流 / 日本近代文学 / 比較文学 / 芸術 / 演劇学 / 翻訳 / ジャポニスム |
研究概要 |
本年度は、研究代表者と分担者が主にイギリス、アイルランド及び日本における調査を協力あるいは手分けして行い、予定していた調査をおよそ終えることができた。その成果は以下の三点に集約できる。1. 鈴木がロンドン(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、ロンドン大学SOAS、大英図書館)、ライ、ダブリン(国立図書館、国立美術大学、国立美術館)、橋本がロンドン(ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、大英図書館)等において主要資料の収集、撮影、調書記入、文献の入手を行った。2. 英国に残存する郡虎彦及び日本人演劇関係者の書簡について、SOAS、ナショナルトラスト及び大英図書館の協力を得て調査を行い、研究協力者であるSOASのスティーブン・ドッド博士が資料を翻訳し、鈴木が解題を付す作業を行った。3. 並行して、日本演劇が英語圏で受容された背景について、各々が所属機関でジャポニスム関係の文献資料を収集した。以上により、菊池寛、郡虎彦の戯曲上演時のポスター、書評、書簡・メモ等、また郡虎彦の戯曲がイギリスのみならずハワイやカナダでも上演された際の資料を発見・整理した。これらの資料は、日本演劇がどのような文脈で英語圏に受容されたのかを解明する基礎的資料となる。このプロセスにおいて、英語圏で日本戯曲が受容される大きな要因となった人物が、ジャポニスムや女権運動といった当時の社会的な動きの中でも大きな役割を果たしていたことが浮かび上がり、日本演劇の受容がジャポニスムの大きな流れの中に位置づけられる可能性が浮かび上がった。成果発表として、研究代表者及び分担者の両名が7月下旬にロンドンで行われた国際会議において、世紀転換期のイギリスにおける日本芸術の受容及び相互交渉という視座で、英語で研究発表を行った。このようなお互いの研究及び資料収集の成果をフィードバックしていく作業は、次年度も行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成23年度の研究計画はおおむね達成でき、さらに鈴木(代表者)が「頭脳循環を活性化する若手研究者海外派遣プログラム」(日本学術振興会)において資料の豊富なロンドンにおいて一年間研究を遂行することが可能であったため、イギリス及びアイルランドでの近代日本演劇の受容及び相互交渉の状況については、当初予定していた以上の資料を発見し、新たな知見を得る部分もあった。 さらに、鈴木が主に調査していた郡虎彦のイギリスでの受容に際しては、橋本(分担者)が行ってきた英語圏におけるジャポニスム・黄禍論研究と、受容を担っていた人物が重なり合っていたことを証拠立てる具体的資料が見つかった。このことで、日本演劇の英語圏での受容の背景を、橋本による東洋を舞台とした演劇やミュージカルの調査、さらに当時のエキゾティシズムを流用し流行させた日本人の足跡及びその影響を発掘する作業が裏打ちされ、二人の共同研究の相乗効果があらわれた。調査のための研究打ち合わせは、ロンドンで2回行った。 ただし、鈴木が主にイギリス及びアイルランドで研究活動を遂行したために、研究計画では6月と11月に行う予定であった日本におけるアイルランド文学受容関係資料調査は次年度に持ち越すことになった。 しかし、郡虎彦が日本の演劇に関して講義を行ったロンドン大学SOAS図書館、大英図書館を中心に、調査及び資料文献の収集を行った結果、彼の戯曲がロンドンで上演された時の資料群を発見したことをはじめ、ロンドンで得た成果は大きい。これらの資料について、引き続きロンドン大学SOASの研究協力者とともに、整理・研究を進め、翻訳・解題を付したうえでの発表の準備を進めている。上記の成果を発表するために、ジャポニスム学会における研究発表及び大阪大学におけるワークショップを企画申請した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度に引き続き、同様の研究方法により、同様の作業が進められる。鈴木暁世・橋本順光が調査および研究成果を共有し、ロンドンの大英図書館での調査及び成果発表に重点を置く。鈴木は郡虎彦の書評記事の同定、橋本順光は当時の日本文化の紹介記事などから郡らの足跡と関連についての広範な調査を行う。英語圏での先行研究が欠落しているため、研究成果を英語で発表する必要性が高く、適宜英文校閲を依頼する。また、新聞・雑誌など一次資料への訳注の作業を開始する。鈴木暁世・橋本順光とで、調査の成果を発表・共有し、研究会(大阪・3回以上)において討議を重ねる。具体的作業としては、以下の3点にまとめられる。1. 適宜、謝金を使用する形での関係資料の書誌情報の整理。2. Morning Postをはじめ、Time and Tide, Outlook, Lloyd, Daily News等のメディアの特徴を分析、考察する。3. 郡・菊池の劇評・作品評等の記事の論調を分析し、書誌解題および書評の紹介と抄訳を発表する。並行して、研究成果の中間集約及び成果発表。必要に応じ、関連分野の研究者からの助言・協力を仰ぎ、ワークショップを企画申請する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
1.郡虎彦、Glenn Shawらの英語圏への日本文化発信者に関しては、十分に研究されていないだけでなく、復刻もされていない。まとまって所蔵している図書館も少なく、九州大学の郡虎彦旧蔵書、早稲田大学演劇博物館での調査が必要不可欠なほか、相当数の文献を購入し、整理する必要が見込まれる。本研究課題では、日本近代文学・演劇学及び近代イギリス・アイルランド文学・演劇学関連の基本的文献意外に、先行研究、およびジャポニスム関連書籍が必要であり、計上した。2. 旅費に関しては、実際に資料を所有している大英図書館、アイルランド国立図書館、アベイ座、及び大学・研究機関に赴き、その文献を調査するために必須であり、また研究成果発表時にも必要である。3. アイリッシュ・スタディーズの最近の動向を知り、英語圏に収蔵の一次資料の情報を得るためにも、専門家を訪問、あるいは招聘して議論を行う必要がある。その際には、旅費としても相応の謝金が必要となる。また、謝金に関しては、英語母語話者に執筆した英語論文を校正してもらうために必要である。4. 印刷・通信費に関しては、多くの演劇に関する上演パンフレット、新聞・雑誌に掲載された書評・劇評をコピーあるいはCD-ROMに複写するための経費として必要である。特に、アベイ座を中心とした1920年代のアイルランド演劇史関連資料(特にダブリン・ドラマ・リーグにおける外国演劇上演)は、アイルランド国立図書館で未整理・貴重図書扱いであるため、一枚一枚複写許可を得て収集する必要がある。5.このように相当な数と量の一次文献、二次文献、複写物を必要とするため、しかるべき謝金を使用した形での、それらの整理と保存が見込まれる。
|